それからしばらくして自転車のブレーキ音が盛大に響いた。

「幹太!」

 亮介の後ろに乗っていた国崎は、彼に手を引かれながら海岸へ降りて来る。
 顔が少しだけ強張っているようだ。

「幹太、栞里って……」

 俺たちのそばへ駆け寄ると、国崎が先に足を止めた。

「……お姉…ちゃん?」

 どうやら彼女にも栞里が見えているらしい。そして、亮介も「えっ」声を漏らしたあと目を白黒させた。

「……茜音……」

 栞里は、立ち上がって国崎の元へ歩いてゆく。一歩ずつ、確実に。
 だけど、砂浜に足跡は一つも残らない。

「ほんとにお姉ちゃん……?」
「うん」
「……ほんとに?」
「そうだよ」

 何度も何度も確認したあと、口元に手を当てた国崎。顔を歪めて、泣いた。子どものように、くしゃりと顔を歪めて。

「茜音、驚かせちゃってごめんね」

 国崎の頭を撫でて、柔らかい表情を浮かべる。その瞳には、涙がじわっと滲んだ。

「……茜音のことたくさん傷つけちゃってごめんね。つらい思いさせちゃってごめんね。茜音の心に傷を残しちゃってごめんね」

 栞里が涙を流しながら言葉を紡ぐ。その声に「……違う…違う…」国崎は首を振った。

「だって私が、お姉ちゃんの命を奪ってしまったの!」

 顔面蒼白な顔をして、よたよたと数歩後ろへ下がる。

「私が……あの日家を飛び出さなければ、私があの日お母さんたちと喧嘩をしなければ、お姉ちゃんは……命を落とすことはなかった……」

 命の灯火が今にも消えそうなほど、弱々しい声で。

「…それなのに私のせいで……お姉ちゃんが…」

 悲しさに同調するように海が荒ぶる。

「──違うよ、茜音!」

 切羽詰まった声で国崎の名を呼ぶ。

「……茜音のせいじゃない。茜音が罪悪感を感じる必要はない。だって私のために……写真部に入って守ろうとしてくれたでしょ。私が写真撮ることが好きで、おじいちゃんのカメラを借りて写真撮ってたこと茜音が知ってたから……」

 急速に手繰り寄せられる国崎の言葉が頭の中に次々と浮かぶ。

 ──どうしてもお願い! 名前貸してくれるだけでいいの!

 ……あれは、こういう意味だったのか。

「だから私のためにバレー入るの諦めて、写真部に入ってくれたんだよね」

 薄日がさすような微笑みを漏らす。