「帰って来ない私を不審に思って家族が私を見つけてくれたんだけとね……病院に運ばれた頃にはもう……だから、茜音はあの頃から……ずっと今も自分を責め続けてる……自分のせいで私が死んじゃったんだって……」
栞里の歪む表情と、国崎の涙を堪える表情が似ている気がした。
「茜音にはそんな思い持ち続けてほしくなかった……」
ポツリ──、一粒の涙を流した彼女は、目を伏せた。
「だけど、そろそろ時間みたい……私、この世界にいるべき人間じゃないから、自分の場所に戻らなきゃ……」
栞里に手を伸ばすけれど、触れている感覚がまるでなくなる。
栞里の存在は、今ここにあるのに。
栞里の言葉は、俺に届いているのに。
「……ごめんね、幹太くん」
国崎も栞里もお互いの後悔を残したまま離れ離れになってしまっていいのか?
──そんなのダメに決まってるんだろっ。
「もう少しだけ待って……!」
荒々しい声を上げたあと、ポケットに入れっぱなしのスマホを取り出した。電話帳を開いて、たった一人を探しだす。
──プルルルルっ……機械音が響いたあと、ブチッ。
「幹太かっ?! 今どこで何やってんだよ! さっき教室に高槻はどこ行ったんだって生徒指導の先生が来たぞ!」
「国崎に変わってくれ!」
「──は?」
「いいから、早く国崎に変われ!」
何が何だか分からない声が機械越しに聞こえ、亮介の声が遠くなったあと「……もしもし」国崎の元気のない声が聞こえた。
「海岸に来てくれ!」
「……え、なに言って…」
「とにかく早くしろ!」
「で、でも、授業が……」
「後悔してることがあるんだろ!? 栞里に謝りたいことがあるんだろ?!」
なんで俺、こんなに声を荒げてるんだ。他人のことなんて全然興味なかったじゃないか。
「栞里に二度と会えなくなってもいいのかよ……っ!」
聞こえているはずなのに国崎は何も言わない。代わりに「幹太、俺だけど」亮介の声に切り替わる。俺の声が聞こえてスマホを取ったんだろう。
「栞里ってどういうことだよ。茜音のねーちゃんのことだろ……? なんで幹太……おまえが知ってるんだよ!」
「それはとにかくあとだ。今は国崎を海岸に連れて来てくれ!」
「いやっ、でも……」
「──頼む!」
俺が国崎と栞里にしてあげられるのは、これくらいしかない。
「今頼れるのは亮介……おまえしかいないんだよっ!!」
──栞里と国崎の絆を結び直すチャンスは、これが最後だ。
「分かった」
声が一つ落ちたあと、ブツっ、向こう側の音が消えた。
頼む。どうか間に合ってくれ──