「たくさん人がいたなかで声をかけてくれたのは幹太くんだけだった。幹太くんだけが傷ついた私に手を差し伸べてくれたの……幹太くんが私のヒーローだった」
にこにこと小春日和みたいに緩む表情。
「やっぱりあの出会いが私にとって初恋で……幹太くんが私の初恋の男の子なの」
あまりにさらっと告げられて、一瞬反応が追いつかなかった。
俺が、初恋の相手……?
「いや、ちょっと待って……意味が分からな……だって、この前の告白ダメ…だったし……」
頭の中が真っ白に抜け落ちて、言葉が出てこない。
「ほんとはね、すごく嬉しかったよ。飛び上がりたいほど嬉しかった……だってまさか両想いだなんて思ってなかったから……でも私、三年も前に死んじゃってるから……幹太くんの気持ちに応えても幸せになれる道はひとつもない……でしょ」
「だから──」震えた声が、ピタリと止まった。栞里の瞳からは、いくつもの涙が溢れ落ちていた。
俺はぽかんと口を開いたまま顔が空気に凍りついたように、全身の血が冷えわたって動悸が高まる。
「諦めようって思ったの。自分に、そう、言い聞かせて……でも、ダメ…だった。どうしても諦めることができなかった……私、あの日からずーっと幹太くんのことが好きだったから……」
すごく幸せな言葉を言われているのに、どうしてこんなに悲しいんだろう。胸が苦しくなるんだろう。
「……いつかもう一度再会できたらって、ずっと……ずっと──」
震える声で必死に声を紡ぐ。俺は、たまらず栞里の手を掴むとくんっと手前に引っ張って腕の中に抱き止める。
そうしたら彼女は、「幹太くん…」驚いて、腕の中でわずかに顔を上げる。が、耐えられなくなったのか俺のシャツを握りしめると、肩を震わせた。
声を殺して、泣いたのだ。
──彼女はたしかにここに存在するのに。
──彼女に触れられることもできるのに。
それなのに三年前に栞里が亡くなっているなんて、そんな話信じられるわけがなかった。
だけど、それが真実で。
俺は、栞里を強く強く抱きしめた。
ざざーん。押し寄せる波音がいつもよりひどく荒れているようで、少し冷たくて、心を急激に冷やしてゆく。
「この町に──…」
ぽつり、声を漏らす。俺は少しだけ抱きしめる腕の力を緩めた。
「幹太くんが来たときはすごく……びっくりしてね……でも、嬉しさの方が上だった。嬉しくて嬉しくて……どうしても話したいって思ったの。そうしたら幹太くんに私の姿が見えていたの…」
「……うん」