「……発作がでちゃって寝込んだの。病院の先生は不安が積もって発作が出たんだろうって言ってた」

 一言一句、必死に紡ぐようにゆっくりと言葉を落とす。

「それでね、次の日、家族みんなで海に行くはずだったんだけど……私のせいで行けなくなっちゃったの……」

 震える栞里の声を聞いて、俺の胸は締めつけられる。

 俺が海へ行ったのは、二日間。

「……じゃあ次の日会った子はやっぱり…」
「妹……茜音だよ」

 ここへ来る前に国崎から聞いていたこととピタリと一致する。

「茜音が、どうしても海に行くって言って聞かなくて……気がついたら家にいなかったの。どうやら一人で海に行っちゃったみたいで……だから、幹太くんが二日目に会ったのは茜音の方」

 栞里の言葉を聞いて、記憶が奥深くから、しゃぼん玉のように頭の方へ浮かんでくる。

 一日目も二日目も俺は同じ子だと思った。まさか双子だとは思いもしなかった。

 あの頃の俺は。

「……全然、気が付かなかった」

 気が抜けたように声を漏らせば、「そりゃそうだよね」口元に弧を描いた栞里。

「だって双子なんだもん。一度見たくらいじゃ違いなんて分からないでしょ?」

 俺が栞里と国崎と会ったのは、ほんのわずか。会話だって少しだけ。その短い間で双子だと見抜くには、小学一年生の俺には難しい難問だ。

「それでね、茜音が家に帰って来たときに幸せになれる砂を持ってたの。お金ももって行ってなかったから自分で買えるはずないし……どうしたのってお母さんが聞いたら、知らない男の子にもらったって言って……あとは何も教えてくれなかったの」

 思い出したように次から次へと言葉を紡いでいく。俺の知っている記憶とどんどん一致する。それはまるでパズルピースのようで、抜け落ちている記憶の部分に言葉がはまっていく。

「でもね、私分かったの。それってきっと幹太くんだったんじゃないかなぁって……もしかしたら私だと思って声かけてくれたんじゃないのかなぁって……」
「うん、そう思って声かけた」

 まさかあれが別人だったなんて子どもの俺には思いつきもしなかった。そうしたら「やっぱり」と言って微笑んだ栞里。
 身体がかあっと燃えるような恥ずかしさが俺を襲う。

「幹太くんは、あのときのこと覚えてなかったかもしれないけど……」

 途中まで言いかけて、口を結んだ。
 息を整えるように、目を伏せてゆっくりと深呼吸したあと俺へと顔を向ける。