「じゃあなに。さっき私が話しかけたときも、こいつ誰だっけ、って思ったの?」
不満そうに尋ねられ俺は素直に問いかけに頷いた。「もうっ!」再度拳を振り上げるが「茜音やめろって」と止められる。名前は分からないが、こいつがいて助かった。
「まずは自己紹介しようぜ」
突飛なことを目の前の図体の大きなやつが告げる。
「え? 亮介なに言ってるの」
「だってさ、高槻まだ俺たちのこと覚えてないんだぜ。だったら自己紹介するしかないじゃん」
女の子は納得いってないようだったけれど、まずは俺からな、と勝手に話を進めだす。
「俺、羽田亮介。血液型は〇型で好きな食べ物はからあげ。嫌いな教科は数学。で、あと写真部所属!」
てっきり名前だけ教えられるかと思っていたが、一部余計なものがあったな。それともこっちで言う自己紹介ってこういうものなのか?
ニィと歯を見せて「よろしく」と言ったあと「ほら茜音も」と肩をぽんっと軽く叩いて前へ押す。羽田とは対照的な不満そうな表情を浮かべていた。
「……国崎茜音」
そっけなく言ったあと、顔を背けた。どうやら俺のことが気に食わないみたいだ。
「茜音は素直じゃなくて、ちょこーっと暴走すると周りが見えなくなるところもあるけど悪いやつじゃないから!」
すかさず羽田がフォローを入れる。
「よろしくな高槻!」
と、俺に手を差し出した。
つい最近同じことをした人のことを思い出す。
──栞里のことだ。元気にしてるだろうか?
〝またここで〟そう言って別れたが、また会えていない。やっぱりあのとき連絡先を聞くべきだった。
「おーい高槻」
名前を呼ばれてハッとする。
「ここは握手する場面じゃん」
「男同士でそんなことしないだろ」
「男も女も関係ねえ!」
乱暴に手をとられると、無理やり握手をさせられた。羽田の手は当然ながらゴツゴツしてる。
「茜音もやるか?」
「絶対やらないし」
ふんっとそっぽを向いた国崎に、「ったくも〜…」呆れたように肩をすくめて笑った。
「こんなんで部活勧誘成功なんかするかよ」
羽田の言葉にハッと何かを思い出した彼女は、背けていた顔を戻し俺へと一歩近づいた。