「……辻褄?」
「ほんとはね、幹太くんと同い歳って言いたかったんだ。でも……言ったら私高校生なのに高校行ってないってことになっちゃうでしょ? ……だから、咄嗟にあんなこと言っちゃったの」
たしかにその通りだ。自己紹介のとき同い年だと聞いていたら高校には行かないのか、そんな話題が出ていただろう。
「それに高校に双子の妹がいるって知ったら幹太くん知りたがって聞いちゃうでしょ……?」
双子だと聞けば、ふつうの姉妹よりも知りたくなるかもしれない。
全部、俺のことを理解した上であんな嘘ついてたのか。それを考えると胸が押し潰されそうになる。
「……じゃあ、ほんとに栞里は……」
その先の言葉がのどの奥から出てこなかった。それを肯定することがまだできていなかった。
口ごもる俺に、「……うん」ゆっくりと頷いたあと、苦い笑みを浮かべた。
「……私、三年前の今日病気で死んじゃったんだ」
栞里は、まるで他人事のように淡々と告げる。
事実を肯定されて、目を逸らすことができなくなる。
身体の中から力が抜けそうで、海岸に立っているのがやっとなくらい俺の足には力が入らなかった。
「私ね、生まれつき身体が弱かったの。だから運動全般できなかったし、いつも体育の時間も見学してた。少し走っただけで発作が出るから、家で本を読んでたり静かに過ごすことが多かったんだ」
過去の記憶を思い出しながらぽつりぽつりと言葉を紡いでいく。
「……でも妹は、楽しそうに走ることもできてみんなと遊べて……それなのに私はいつも遠くから楽しそうな姿を眺めているだけで……それを羨ましく思ってた」
悲しそうに目を細めながら遠くを眺める。
「だけどね、幹太くんと過ごしている間はふつうに走ることができた。病気のことなんて気にせずに全身で風を感じてた……みんなと同じようにふつうのことができてほんとに嬉しかったんだぁ」
薄日がさすような微笑みを漏らす。
この一ヶ月半、栞里を見てきたけど彼女はすごく明るくて前向きで、それでいて元気だった。
俺の前を駆けて行くこともあったし、上り坂を自転車を押して歩いたこともあった。
「……じゃあ、自転車の後ろに乗せてほしいってお願いしたのは、」
思い出したように俺が言葉にすれば。
「うん。自転車にも乗ることができなかったから、一度でいいから風を感じてみたかったの」
口元に少しだけ弧を描いた。
あのとき〝一生のお願い〟がどうして自転車の後ろなんだろうと思った。