「それは……」

 奥歯に物が挟まったような表情を浮かべて言葉に詰まらせる。
 その表情を見て、一瞬薄寒くなる。

 ……違う。そんなはずはない。大丈夫だ……自分を納得させるように言い聞かせる。

「……多分、幹太くんのお母さんの命があとわずかなんだと思う。だから……」

 一言一句丁寧に息をくるむように告げたあと、静かに口を結ぶ。

 この不可解な事実に答えが見つかった瞬間、全ての物事がピタリと枠にはまる。まるで最後のパズルピースのように。

「母さんの命が……」

 あとわずか。

 頭の中が白く抜け落ちるような衝撃が走る。

 嘘であってほしい、そう願っても栞里の存在がそれを肯定する。全て事実だということになる。

「……ごめんなさい」

 不意に栞里がか細い声を紡ぐ。

「幹太くんがそんな苦しい顔をするのは全部……私のせい…だよね……」

 今にも泣き出しそうに顔を歪めて、ぽつりぽつりと言葉を言う。

「私が幹太くんのお母さんに会わなければ……幹太くんがこんなに苦しむこともなかったのに…」
「それは……」

 違う、と否定したいのにのどの奥に言葉が詰まって出てこない。
 代わりに心の中には、刺さった棘が抜けないような痛みがじわじわ広がってゆく。

「謝っても許されることじゃないとしても謝らせてほしい……ほんとに、ごめんなさい」

 俺の目の前で、深く頭を下げる栞里。

 その姿を見て、切り傷が風に触れるように心が痛い。

「……今までのこと…全部嘘なの?」

 ようやくのどの奥から出てきた言葉は、震えていた。
 息が止まりそうなほど全身が鉛のように重たい。

「俺に教えてくれた名前も思い出も冬に流星群見ようって約束も、全部……嘘だったの……?」

 頭の中が真っ白に抜け落ちる衝撃が走り、俺はよたよたと二、三歩後ずさる。
 その瞬間、「嘘じゃないよ……!」矢継ぎ早に現れる少し切羽詰まった声。

「……〝朝日〟って名字はお母さんの姓をとったの。国崎って言ったらきっとバレちゃうだろうから……それに今まで紹介したこの町も私にとって…全部、思い出の場所で……約束したことも嘘じゃない」

 栞里の言葉でさっきそこにあったかのように次々とはっきりと記憶が浮かび上がってくる。

「じゃあ何で双子だって教えてくれなかったの?」
「……それは幹太くんに事実が知られないように」
「どうしてそんな嘘……」

 予想外の出来事に、理不尽な仕方で返り討ちにあったかのような衝撃を受ける。

「簡単に言えば辻褄を合わせるために…かな」

 俺の言葉を聞いて苦い笑みを浮かべたあと、目を伏せる。