「国崎の姉ちゃんと俺が会った栞里ってもしかして同一人物ってことなのかな」

 頭に浮かぶ不確かな答えを国崎へぶつける。

 俺が尋ねてから黙り込む国崎。
 驚いているような少し青ざめているようなそんな表情を浮かべていた。

「……多分、別人じゃないかな」

 だけど、彼女の口から現れた言葉は否定的なものだった。

「なんで。それは確認してみないと分からないだろ」
「──分かるよ!」

 少し声を荒げたあと「……分かるよ」今にも途切れそうにか細い声で声を漏らす。

「……だってお姉ちゃんは三年前に亡くなってるから」

 国崎の口から出てきた言葉に「えっ……」ひどく動揺した俺は、雷に打たれたように目を大きく見開いた。

 〝……お姉ちゃんは三年前に亡くなってる〟?

「……いや、なに、言って……」

 胃袋を掴み絞られたような息苦しさがやってきて言葉は途切れ途切れになる。

「なにってそれが現実なの」
「……ふざけてんの?」
「これが冗談ならよかったけど」

 糸のように細く引いたかすかな淋しさのような声を落とす。

 だから、国崎が言った言葉は冗談でも嘘でもなく事実なのだと思った。

「お姉ちゃん……きっと私のこと、恨んでるだろうなぁ……」

 急に顔を歪めると、目にはいっぱいの涙を溜めて今にも溢れそうだった。

「なんで、そう思うんだよ。妹のこと恨む姉なんてこの世にいないだろ」
「──私がお姉ちゃんを殺したって言っても今と同じことが言える?」

「………は?」

 国崎が姉を殺した……? 栞里を?

「それ……どういう意味……」

 尋ねても、国崎は口を閉ざしたまま涙を堪えていた。

 実の姉を殺したという妹。それがどういう意味を示しているのか今の俺にはわからなかったけれど、国崎が話すのを待っている暇はなさそうだ。

「栞里が亡くなったのって、いつ……」

 心が冷えて石のようになる全身を必死に奮い立たせて、国崎に尋ねる。

「……十月二十日」

 日付けは、今日だった。

 ──ドクンッ

 俺の中の何かが危険を察知する。

「ごめん、これ」

 俺はいてもたってもいられなくなってプリントを国崎へ押し付けると、踵を返して来た道を走った。

「ちょっと、高槻くん……?!」

 後ろの方で国崎が声をあげるけど、俺はその声に立ち止まることはできなかった。