俺の言葉を聞いてピタリと国崎の足が止まる。

 顔は見えない。代わりに彼女の背中が少しだけ震えた。
 俺は、ゴクリと固唾を飲む。

「──もらったよ」

 背を向けたまま、くぐもった声で彼女は答えた。

「じゃああのときの女の子って……」

「──でも、私じゃない」

 くるりと振り向いた彼女の表情は、どこか強張っているようだった。

「……どういう意味だよ」

 砂を受け取ったことは認めるのに自分じゃないと言い張る理由は、なぜだ?

 一歩、二歩、国崎へ歩み寄る。揺れた瞳の目線を一度下げた。そのあとを追うように彼女を見つめていたら、拳を握りしめてぐっと顔をあげた。

「たしかに私は十年前、男の子に幸せになれる砂をもらった。それは間違いない」
「じゃあ、」
「でも、最初に会った女の子は私じゃない」

 突飛なことを告げられて理解に追いつかない。

「…は? なんだよそれ」

 困惑した俺の肺からは酸素が減っていくようだ。理解しない俺に「だからっ」興奮した彼女は声を少しだけ張り上げた。

「二日連続で女の子に会ったでしょ。それで幸せになれる砂をもらったのが私! 一日目に会った子はお姉ちゃん!」

 まくし立てられるように告げられた言葉に、俺の心の奥深くに閉まっていた〝何か〟がかちっと音を立てる。

 一旦意識すると、記憶が連鎖的に蘇ってきて、あのときのシーンが脳内でカラーで再生される。

 ──どうしたの? 大丈夫?
 ──妹とけんかしちゃったの。

 ──妹、許してくれるかなぁ。
 ──ちゃんとあやまれば大丈夫だよ。

 ──きみとお話ししてたら元気出てきた。ありがとう。ちゃんと仲直りするね!

 忘れていた女の子の姿形がしっかりと映し出される。

「お姉ちゃんと私、双子なんだ。顔、そっくりでしょ? この頃が一番似てるってみんなに言われてたの」

 少し誇らしげに表情を緩めながら、写真を見つめる。

 たしかに写真の中に映る女の子二人は、そっくりすぎるくらい似ていた。

「名前、なんて言うの?」
「……栞里だよ。国崎栞里」

 ぼんやりと浮かんでいた謎を肯定するように、国崎が告げる。

 ──どくんっ、胸の奥の何かが音を立てる。

 二日目に会った女の子が自分だと言い張った国崎。だけど一日目は姉の方だと言った。しかも姉の名前が〝栞里〟。その名前に思い当たる人物が一人だけいる。

「……俺さ少し前に栞里って子に会ったんだ」

 ポツリと言葉を呟くと、え、と目を白黒させた国崎。まるで雷に打たれたような、呆気に取られたような不思議な表情で固まる。