それから国崎と二人でプリントを取りに行った帰り。
「──あっ、ちょっと待って。自販機寄ってもいい?」
俺の返事を待たずに走って行くから、仕方なく俺もそのあとを追った。
スカートのポケットからお金を取り出そうとしたとき、生徒手帳が落ちる。「─あ」声を漏らした国崎。
タイミング悪く自販機に数人生徒が並び出すから、わたわたと慌てる。
「いいよ、俺拾っとく」
「ごっ、ごめん!」
自分の後ろに並ぶ生徒に小さく頭を下げる国崎。
代わりに落ちた生徒手帳を拾おうと、かがんだ。
「……ん?」
何か挟まってる?
生徒手帳から半分はみ出たそれを悪いと思いつつ引っ張り出して見た。それは幼い頃の女の子が二人映っている写真だった。
「ごめん! お待たせ!」
ジュースを買った国崎が慌てたようにやって来るが、写真を見ていた俺を見て動きが止まる。
「ご、ごめん……っ」
罪悪感に苛まれて写真を生徒手帳に戻し突き返す。
「それ小学生の頃の私とお姉ちゃん」
突飛なことを告げられて、え、と声を漏らした。まるで寝起きに水をかけられたような気分だ。
「……お姉ちゃん?」
写真に映る女の子は、顔がそっくりだ。
「これね、私とお姉ちゃんが海に行ったときに撮った写真なんだ」
「……海」
「うん。あっ、この前、亮介と三人で行ったあの海岸だよ。そこで記念に撮ったの。すごくいい写真でしょ! 一番気に入ってるの」
顔にぱあっと花が咲いたように浮き浮きと笑顔になる。
俺たちが行ったあの海岸。つまりそれは、十年前に女の子と出会った場所。
──『妹とけんかしたの』
カセットテープを巻き戻すように、過去を遡る。
──『それで家にいたくなくて飛び出してきちゃった』
──『だけど誰にも内緒で出てきたから、きっとお母さんたちしんぱいしてる』
──『妹にも悪いことしちゃった……』
──『私がぜんぶ、悪いの』
一旦意識すると、それ以降の記憶が連鎖的に蘇ってくる。
ぼんやりと浮かぶ女の子の横顔。はっきりと見えてはこない。
だけど、この胸の奥の高鳴り。
「こっちがお姉ちゃんだよ!」
──間違いない。俺は、この子に会ったことがある。
「国崎……」
だけどまだ、何かが引っかかる。
「あ、えーっと……も、戻ろっか!」
分かりやすく慌てたあと、顔を引き攣らせて笑う。
今を逃せばおそらく一生後悔する気がした。
「……なぁ国崎、十年前に海で男の子と会って幸せになれる砂もらわなかった?」
なんの確証もない。だけど、聞かずにはいられなかった。