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初恋が散ってから、放課後は公園に向かうこともなくなった。
「なぁ、幹太。おまえ最近元気なくない?」
心配した亮介は気を遣うようになった。
「全然元気だけど」
「いや、そう見えないから」
「……」
「なんで睨むんだよ」
栞里に振られることは分かっていた。一日目は元気でいられた。けれど、段々と栞里に会えないことを実感すると感情は少しずつ不安定になっていった。
「何かあったなら話聞くけど……いや、べつに無理に話せとは言わないし、幹太が話したくなったらでいいっていうか……」
最初は威勢がよかったものの段々と弱々しくなる声と狼狽える表情。
やつはやつなりに心配しているらしい。一人落ち込んでいるのがバカらしくなって口元を緩めた。
「振られた」
「……え、振られ……振られた?!」
簡潔に説明すると目を白黒させたあと、虚を衝かれたように慌てて金魚のように口をパクパクさせる。
「まぁ、そういうわけで……」
話を打ち切ろうと思った矢先。
「いつ! どこで! つーか好きな人って誰だったんだよ! 俺には一言の相談もなしに告白なんかしたのかよっ」
機関銃のように次から次へと質問をされて返すタイミングを全て失う。
「べつにいつ言おうが俺の自由だろ」
「そーだけどさぁ、もっとなんかこう……語り合いたかったっつーかさ、分かる?」
「なんで男同士で語り合うんだよ。気持ち悪いだろ」
「全然気持ち悪くねーよ。かっこつけんな!」
さっきまで狼狽えていたやつが、今度は逆ギレする。
「俺の話は聞くくせに幹太の話何も聞けなかったじゃん!」
「べつにそれでいいし」
「よくない! つーわけで今から話せよ!」
「やだよ。なんで振られた話を蒸し返さなきゃならないんだよ」
傷口を開くつもりか。傷口に塩を塗るつもりか。これでもまだ落ち込んでるんだからな。
「じゃあせめて一つだけ! どんな子だったんだよ! 名前は? 同じ学校? どこで出逢った?」
見開いた瞳から烈々たる気迫がレーザービームのように放射される。
「……一つじゃねーじゃん」
俺の口から溢れたツッコミはなんとも弱々しかった。
「それだけ気になるってことだよ……!」
ばんっと両手を机の上につくと、立ち上がる。