「──あっ、あった! あったよ幹太くん!」
しばらくして栞里が声を張り上げた。
諦めかけていた俺に一筋の光が見えた。顔をあげると栞里が空へと手を掲げ、その中にはキラリとひかる瓶が見えた。
「見てみて! 壊れてないよ! よかったね!」
嬉しそうにばしゃばしゃ水しぶきをあげながら俺のそばへ駆け寄る。両手で大事そうに包み込んだそれを目の前で「ほら」と広げる。
ビンの表面は濡れていたけれど、中身は無事そうでホッと安堵する。
「……見つかるって思わなかった」
この広い海に小さな瓶が落ちてしまえば、探すのは不可能だ。
「幹太くんの気持ちが伝わったんじゃない?」
不意をつくように告げられた言葉に、え、と困惑して声を漏らす。
「俺の気持ち……?」
「好きな人に渡すぞ!っていう意気込みみたいなのが、きっと届いたんだよ!」
屈託のない笑顔で言ったあと、「絶対そうだよ!」自分一人で納得してうんうんと頷いた。
これが誰に渡すものなのか知らずにそんなことを言う栞里。
「今度はもう落とさないように気をつけてね!」
その笑顔を見た瞬間、俺の中の何かが外れた気がした。
「──あのさ、栞里」
気がつけば俺は彼女の手首を掴んでいた。
「これ、もらってほしい」
混沌と湧き出る感情を俺は抑えることができなくなった。
「……え?」
雷に打たれたような、呆気にとられた不思議な顔を浮かべて固まった。
「初めから栞里にあげるつもりだった」
それを知らなかったのは、ただ一人、栞里だけだ。
「だから受け取ってほしい」
「え、でも……」
状況を飲み込めずに目を白黒させながら言葉を詰まらせる。
「ここに俺の気持ちが入ってる。読んだら返事がほしい」
幸せになれる砂に紛れ込ませるように小さく織り込んだ手紙には、俺の想いをしたためた。
渡す前から分かったいた。栞里が何て答えを出すのか、俺は知っていた。
困惑する栞里を前に、俺は少しだけ清々しい気持ちだった。
それは、ようやく自分のくすぶっていた想いを伝えることができたのだから──。