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「幹太くん、眉間にしわ寄せてどうしたの?」

 放課後、公園のブランコで黄昏ていた俺はその声でハッとする。隣へ顔を向けると、俺を見つめたままきょとんとする栞里と視線がぶつかる。

「あ、いや、ちょっと考え事を……」
「考え事?」

 昨日父さんからあの話を聞いてから、俺はなんだかそわそわして落ち着かなかった。

「栞里は自分の小さい頃の記憶とかはっきり覚えてる?」
「え、小さい頃……? 具体的にどれくらい?」
「小学一年生くらい」
「うーん……まぁぼんやりとこんなことがあったかなぁってくらいかな」

 俺の記憶はおぼろげで女の子の顔さえ思い出せない。それなのに記憶の中の誰かが俺を呼んでいる。

「どうしたの急に。小学一年生の頃に何かあったの?」
「あー、えっと実は──」

 昨日父さんから聞いた話をそのまま栞里に打ち明けることにした。もちろん一言一句漏らさぬように順を追って説明する。

「──っていうことなんだけど……」

 十年も前のことなら父さんの話しが違っていた、なんて可能性もゼロではない。

「そんなことがあったんだねぇ」
「まぁでも父さんから聞いた話だから違ってるところもあるかもしれないけど…」

 全く違う記憶がどこかでズレが生じて、その弾みで無関係の人物があたかも初めからいたように描かれて記憶に残ることは誰にでもあることだろう。

「だけど、幹太くんのお父さんはちゃんと女の子と会ったことは覚えてたんだよね?」
「うん、まぁ……」
「それなら女の子がいたってことは明白なんじゃないかな」
「まぁ、たしかに」

 十年前の小さな頃の言葉をあれだけはっきり覚えているということは、女の子と話したことがあるという事実。

「人間って要領よく生きる生き物だから嫌なことは忘れちゃうだろうけどね」

 不意に栞里がそんなことを言うから、え、呆気に取られてぽかんと固まる。