「それでもう一度海に行ったら一日目に会った女の子がいたんだ。それもまた一人で。泣いてたんだ」
「泣いて……?」
「ああ。だから幹太は、その子に買ったばかりのなんとか砂をあげたんだ」

 俺が幸せになれる砂を女の子にあげた……

 ──『どうしたの? 大丈夫?』

 瞬間、埋もれていた古い記憶が浮かび上がる。

 ……あれ、そういえば亮介たちと海に行ったとき、頭に浮かんだ記憶と一致してるような気がする。俺が声をかけたのもその子なのか……?

 ……いや、でも確たる証拠はどこにもない。

 まだ記憶の欠片が足りなくて抜け落ちている部分が多すぎる。

「その子、いくつくらい?」
「んー……多分幹太と同じくらいだと思うんだが。まだ背も小さかったし……ああでも、この町の子だったみたいだな」
「えっ、そうなの……?」
「ああ、親御さんが来るまでその女の子と待っていたらしばらくして迎えに来たんだ。そのときこの町に住んでるって言ってたぞ」

 点と点が繋がりそうで繋がらない。ぼんやりした視界にも少し苛立ちが立ち込める。

「他に何か言ってなかった?」
「うーん……これ以上のことは覚えていないなぁ……」
「そっか」

 そりゃそうか。十年以上も経っているわけだし。

「なんだ。その子のこと好きだったのか?」
「そういうわけじゃないし……!」

 俺には想いを寄せている相手がいる。

「そうだったな。おまえには好きな人がいるみたいだしなあ」
「──は、はあ…? だからっ、さっきのはただの友達だって!」
「ああ、それもそうだったな。どうやら俺ももう歳だなあ」

 そう言って頭を掻くと、「すまないすまない」笑って箸に手を伸ばす。

 調子が狂って冷静ではいられなくなる。こんな些細なことで動揺するなんて俺もまだ子どもみたいだ。

 そもそも今の俺には好きな人がいるわけだし。今さらその子を探す必要なんかない。どうせ相手も俺のこと忘れてるだろうし……

 だけど、なにかすごく大事なことを忘れているようでならなかった──。