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誰でもいいってことは
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あんたのことを好きじゃないやつでも
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いいってことだろ?
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なんのためにそんなやつとつき合うんだよ
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モテないならモテないままでいいじゃん
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ニセモノの自分を見られるより
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そっちのほうがいいとおれは思うけどな
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あたしの真剣な乙女の悩みに、ド正論が返ってきた。
普段よりも三十分以上もはやく学校に来て、図書室に足を踏み入れた。そして、置かれていたノートを開き、がっくりと項垂れる。
真面目で誠実な感じに、返す言葉がない。
っていうか、この人絶対モテる人だ。モテる男の返事だ、これは。余裕が感じられる。モテないままでいいじゃん、という言葉にそれが凝縮されている。
「羨ま……!」
くうっとひとり唇を噛んだ。
このノートを見つけて、なぜか書き込みをしてきた彼は、どんな人なのか。
一人称が〝おれ〟なので、男子であることはわかったけれど、それだけだ。
にしても、顔も名前も知らない人とノートでやり取りをしているなんて、変なの。
あたしも、こんなこと書き込んでなにしてるんだか。
昨日、図書室に来たのはたまたまだった。
最近通っている図書館に読みたい本が入荷していないとおばあちゃんがしょんぼりしていたので、学校の図書室で探してみるよ、と言ったのだ。そして、メモ帳のような日記のような使い方をしているノートに必要な情報を書き込み、昨日のお昼休みにはじめてここに来た。
ただ、どうやって探せばいいのかさっぱりわからなかった。
そもそもあたしは、小説や漫画は流行っているものしか読まない。そういう作品は、書店でいつもドーンと目立つ場所に置かれているので、探す必要がなかった。
どこを見ても本ばかり。しかも同じものはひとつもない。
どうやってこの中から目当てのものを見つければいいのか。
とにかく図書室をうろうろと歩いた。
闇雲に探したところで見つかるはずもなく、たった教室二部屋か三部屋分くらいしかない図書室の中で、途方に暮れた。
無性に疲れて窓際の棚に腰掛けて休んでいると、友人の眞帆から
『美久、お昼も食べずにどこ行ってんの』『今からジュース買いに行くけど』『美久はなにかいる?』
と立て続けにメッセージが届いて、本探しを諦めて図書室を出た。
ノートを忘れたことに気づいたのは、六時間目の途中だった。
あのノートには景くんの名前を思い切り書いてしまっているのに!
そうでなくても、人に見られたら恥ずかしい内容ばかり書いている。彼氏がほしいとか、ドラマの展開を勝手に予想したりだとか、晩ご飯の献立とか。
SHRが終わってあわてて図書室に戻ると、ノートは窓際の棚の上にぽつんと残されていた。よかった、とほっと胸を撫でおろしたものの、すぐに見覚えのない水色の付箋が貼られているのに気づいた。
なんだろうかと中を確認すると、見知らぬ誰かから書き込みがされていた。
〝誰でもいいとか言ってると 変な男に捕まりますよ〟
と。
なにこの人、余計なお世話なんだけど。
と思いつつも返事を書いてしまったのは、見つけてくれた〝誰か〟が、なんとなく悪い人ではないような気がしたからだ。
でも、ノートを読み直して、なんてバカなことを聞いたんだと恥ずかしくなる。〝モテない女はどうしたらいいんですか〟なんて聞いてどうするんだ。なにをやっているんだあたしは。
でも、見ず知らずの誰かは、こうして返事をくれた。
しかも、返事を書いたのは昨日の放課後なのに、今朝には書き込みが追加されていた。あたしも朝早く学校に来て図書室に確認しに来ているので、内心返事を期待していたんだけど。こうして実際に返事をもらうと、なんか、変な気分だ。
「モテそうだよなあ、この人」
棚に腰掛けて、改めて呟く。
文章から、それは充分に伝わってくる。ささっと書かれているけれど、整っているきれいな字でもそんなイメージを抱く。それにくわえて、行動からも。
最初の書き込みには、わかりやすく付箋を貼ってくれた。それに、棚にぽんっと置いてやりとりをしていたのだけれど、今朝はノートのかわりに矢印の書かれたメモが置かれていた。矢印の先を辿ると、二段目の背表紙の並ぶ棚の一番端に、このノートがささっていて、第三者に見つからないように、という気遣いを感じた。あたしはそんなことまったく思いつかなかった。
落とし物のノートに書き込みをするのは親切なのかどうかはわからないけれど。
「変な人」
あたしもだけど。