……なんか、今さらながらすごいことをしてしまったと思い知る。

 教室がシンと静まりかえっていて、みんなが景くんに注目している。ノートめくる音がやたらと大きく聞こえて、そのたびに胸がぎゅうぎゅうと苦しくなる。

 これは、この場で返事を言われるのだろうか。

 その覚悟はしていたけれど、実際この場に立つと、やばい。いろいろやばい。

 体中から変な汗がだらだらと流れ落ちているような気がした。

 景くんはノートを読んで、ちらりと一瞬あたしを見た。
 そして、


「おれも好き」


 クラスのど真ん中で、堂々と、口にする。
 その瞬間、教室がざわついた。

「な、なん、なんで」
「え? そういう話じゃないの?」

 口をパクパクさせるあたしに、景くんはちょっと焦った表情を作った。

 平然と『好き』とか言うから思考回路がショートしてしまう。なんで景くんはいつもそう、まわりが気にならないのか。そして今さら戸惑いの表情を見せるのか。

「そ、そうだけど、こんなところ、で」
「え? あ、ああ、そうか」

 なにを思ったのか、景くんはペンを取り出して、ノートに書き込みはじめた。

 え、ノートに書くの? なんで?

「はい」

 あっけにとられていると、今度は景くんがあたしにノートを差し出してくる。それを素直に受け取り、今度はあたしが中を開いた。


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     おれも好き
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 え、さっき聞いたけど。
 いや、そうじゃなくて。うれしいけど! うれしいけど!

 ぽかんとしていると、景くんは「え? なにその顔」と眉を寄せた。

 いや、でも。
 うれしいんだけど。
 あたしのあの長文に対してこれだけ? というなんともワガママな思いが……。

 いやいや、贅沢言いすぎだ、と自分でも思うのだけれど。
 なんだろう、この釈然としない気持ち。あたしだけが必死な感じ。

 景くんをそっと見てから、これはあたしもノートに書いたほうがいいのだろうかと、ペンをお借りして景くんの机の前でしゃがみ込んだ。

 っていうか、これ、景くんに返事書くの丸見えになるよね。
 なんでノートでやり取りを続けているのだろう。


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  それだけ?
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 それを見た景くんは、首を捻りノートを引き寄せる。そしてペンを走らせた。


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  それ以外にどう言えばいい?
  好きだから好きって言ったのに
  つき合おうとかのほうがよかったのか?
  口に出す方がいいんじゃなかったのか?
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      そうだけど
      っていうか いつから知ってたの!
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  美久こそいつから知ってたんだよ
  あとひとつ気になったんだけど
  さっきのノートの
  〝ほかの人なんて考えられない〟てなに?
  なんでそんなこと考えだしてんの?
  なんでほかの人の話が出てくんの?
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      ほかの人の話をしたのは
      景くんが先でしょ