「彼氏、か」

 なんでそんなに彼氏がほしいんだろう。ジンや他の友だちもよく彼女がほしいというし、女子もおれに彼女を作らないのかと聞いてくる。
 でも。

 ――『思ってたのと、ちがう』

 美久は、別れる少し前にメッセージでそう言った。

「……他人からのイメージ、か」

 窓ガラスに映り込んだ自分の顔を見つめながら思わず口にする。

 まわりによく思われようと努力しているわけではない。
 面倒なことを避けて、好きなことを好きなように気楽に楽しんでいるだけ。
 それが、結果的におれとはかけ離れたイメージを作り出しているらしく、みんなが見ているおれは、まさしくガラスに映るおれ、という感じだ。

 向こうに透けた明るいなにかを、勝手に透かして見ている。

 美久も、そうだったのだろう。〝おれじゃない理想のおれ〟をイメージして、好きになっただけ。

 そして、おれも美久と同じだった。

 いつも笑っているから、なんでも楽しんでくれると思っていた。おれが好きなことをしても、文句を言いつつ受け入れてくれるような気がした。

 流行りが好きなことは知っていたけれど、ドラマや映画や音楽に敏感すぎて、そしてそれをおれと共有しようとしてくるとは思わなかった。

 お互いに相手を知らなかった。
 お互いに勝手に相手は自分をわかってくれていると思い込んでいた。
 好きだと思ったし、好きだと言ってくれたけれど、だからといって思い描いていた恋人同士になれるわけではない。楽しい時間を過ごせるわけでもない。

 そう考えると、つき合うって面倒くさい。

 誰とつき合ってもいつかは別れることになりそうだ。おれのこと全部知ってくれてて好きになってくれたりしたらいいのかもしれないけれど、そんなの賭けだ。そんなことに時間を浪費するのはもったいねえと思う。それなら趣味の時間を満喫したい。

 けれど、このノートの持ち主はそうじゃないらしい。

〝誰でもいいからつき合いたいけど そんなこと言ってると変な男に捕まるなら モテない女はどうしたらいいんですか〟

 外の景色からノートに再び視線を戻す。

「おれとはまったく価値観が合わなさそうだな」

 こういう女子とは、絶対つき合えねえな。ひとりの時間とか必要がないタイプか。クラスの女子の誰かが言っていたが、彼氏と四六時中一緒のことをしていたいタイプかもしれない。

「変な女」

 相手が誰かもわからないのに、こんなノートにこんな質問する時点でなかなかだ。
 そう思って口元に手を当てると、おれはなぜか、笑っていた。
 そして、カバンからペンを取りだした。