おろおろと手を無意味に動かしてどうにか再現しようとするけれど、まったくわからない。どうしよう。
「ぶ、ぶはははは! なにそれ! 変な踊り!」
「踊りじゃないし!」
「下手くそすぎるでしょ、もっと本気出してよぶりっこ!」
無茶ぶりだ。
「わかんないんだもん! 自分ではわかってなかったし!」
お腹を抱えて笑うふたりに真っ赤な顔で怒ると、ふたりはより一層笑った。ぜえぜえと呼吸を乱し、涙を拭う。そんなに面白いことをした覚えはないのに。
「まあ、そういうこと」
「なにが」
「気にする人もいれば気にしない人もいる。あとはまあ、悪いふうに受け取る人はなにをしたって悪く受け止めるから」
そういう、ものなのだろうか。
「美久だって、有埜くんと別れる前だったら、さっき私と有埜くんが話している姿見ても、なんにも思わなかったでしょ」
「あ……たしかに」
そうかもしれない。
「わたしも、今まで男子としゃべらなかった美久が、陣内くんと急に仲良く話してるから、ちょっと嫉妬しちゃったしね」
そういうものなのか。
今まで見えていたものが、そのときの気持ちでかわって目に映る。そういうものなのかもしれない。
「っていうか面と向かってそういうこという相手は無視していいよ。どうせ嫉妬でもしてたんじゃないの?」
「……あ、ああ、そうなの、かな。景くんとつき合ってたから、あたし」
そういえば景くんと一緒にいたのを見られたことからその話になったような。
「はあ? なにそれ? どういうこと?」
「え? あ、あたしと景くん、実は中学のときに一度つき合ってて」
「また! また隠し事! 隠すのうますぎでしょ!」
気づかなかったー! となぜか眞帆が悔しがっている。
「ったく、ヘラヘラするならヘラヘラしてまわりのことなんか無視すればいいのに」
浅香がため息をつく。
……ヘラヘラ。いや、その通りだけど。
「ひとりの意見が全員な意見なわけないじゃん。っていうか、そばにいる私たちよりもそんな子の意見を参考にするのがムカつくよね」
「わかる。間違いない」
険悪だったふたりは、なぜか意気投合をした。
でも、ふたりの言葉がうれしくて、胸がぎゅうと締めつけられる。
「その子にはそう見えた。だからって私や眞帆まで同じように見えてるなんて決めつけないでよ、失礼ね」
「……ごめん」
かみちゃんにあたしがそう見えたのは、間違いないだろう。
あのときそばにいた友だちも。でも、全員が同じように見えていたかは、わからない。眞帆や浅香がちがうと言ってくれるなら、もしかしたらちがうように思っていた子もいたかもしれない。
「中学のときの美久を知らないけど、そうじゃないって言い切れるよ、わたし」
「そんなに美久は器用じゃないよねえ。話聞いてる限り誰にでも笑って話してただけじゃないの? つまり嫉妬でしょ」
「浅香だって、彼氏にべったりの束縛彼女とか言われてるしね」
「仲がいいのを嫉妬してるだけでしょ。どうでもいいわ、そんなの」
知らなかった。ただただ羨ましいと思っていただけだ。
ぽかんとすると、ふたりは「そんなもんでしょ」と笑う。
ずっと、人は一面だけしか見られないんだと思っていた。
だから、裏があるんだと。
でも、見る人が違えば、見え方はかわってくる。
眞帆も、浅香も、同じだ。まわりがどう言おうとも、あたしにとってのふたりは、言いたいことをはっきり言う眞帆と、大人で落ち着きのある浅香だ。
今まであたしは、なんてくだらないことで自分をがんじがらめにしていたのだろう。気づいてしまえば、こんな簡単な、誰だってわかるようなことだったのに。
――景くんも。
もしかしたら景くんも、あたしをそんなふうに見てくれていたのかもしれない。
あたしですら知らなかったあたしを、見ていたのかもしれない。
でも、もう遅い。
あたしの背中を押してくれた景くんは、すっきりとした顔をしていた。
あたしたちはもう、終わったんだ。あたしが、終わらせた。
今回も。あたしが逃げたから。
顔が歪んでゆく。視界がじわじわと滲んでいく。
「で、美久はこのままでいいの?」
浅香があたしの顔をのぞき込んできた。なにを考えていたのか、きっとバレてしまったのだろう。
「眞帆に嫉妬するくらい好きなんでしょ? 別れたって言ってたけど」
「ちゃんと話せばー? また泣かれても困るしさあ。好きなんでしょ」
うん。
好きだ。
怖くて逃げるほど。
でも、いつまでそんなふうに自分を守るんだろう。もう、守るべきものはないのに。景くんはもうそばにいないのだから、なにをしたってこれ以上悪くなるはずがない。
あたしは、景くんとちゃんと話をしていない。ノートのことも、お互いの気持ちのことも、いつも、お互いに一方通行だった。
話したい。
ちがう。
伝えたい。
今さらなにを言っているのかと言われるかもしれないけれど、それでも。
好きだ。
言葉にするだけで、涙がじわりと浮かぶほど。
「ぶ、ぶはははは! なにそれ! 変な踊り!」
「踊りじゃないし!」
「下手くそすぎるでしょ、もっと本気出してよぶりっこ!」
無茶ぶりだ。
「わかんないんだもん! 自分ではわかってなかったし!」
お腹を抱えて笑うふたりに真っ赤な顔で怒ると、ふたりはより一層笑った。ぜえぜえと呼吸を乱し、涙を拭う。そんなに面白いことをした覚えはないのに。
「まあ、そういうこと」
「なにが」
「気にする人もいれば気にしない人もいる。あとはまあ、悪いふうに受け取る人はなにをしたって悪く受け止めるから」
そういう、ものなのだろうか。
「美久だって、有埜くんと別れる前だったら、さっき私と有埜くんが話している姿見ても、なんにも思わなかったでしょ」
「あ……たしかに」
そうかもしれない。
「わたしも、今まで男子としゃべらなかった美久が、陣内くんと急に仲良く話してるから、ちょっと嫉妬しちゃったしね」
そういうものなのか。
今まで見えていたものが、そのときの気持ちでかわって目に映る。そういうものなのかもしれない。
「っていうか面と向かってそういうこという相手は無視していいよ。どうせ嫉妬でもしてたんじゃないの?」
「……あ、ああ、そうなの、かな。景くんとつき合ってたから、あたし」
そういえば景くんと一緒にいたのを見られたことからその話になったような。
「はあ? なにそれ? どういうこと?」
「え? あ、あたしと景くん、実は中学のときに一度つき合ってて」
「また! また隠し事! 隠すのうますぎでしょ!」
気づかなかったー! となぜか眞帆が悔しがっている。
「ったく、ヘラヘラするならヘラヘラしてまわりのことなんか無視すればいいのに」
浅香がため息をつく。
……ヘラヘラ。いや、その通りだけど。
「ひとりの意見が全員な意見なわけないじゃん。っていうか、そばにいる私たちよりもそんな子の意見を参考にするのがムカつくよね」
「わかる。間違いない」
険悪だったふたりは、なぜか意気投合をした。
でも、ふたりの言葉がうれしくて、胸がぎゅうと締めつけられる。
「その子にはそう見えた。だからって私や眞帆まで同じように見えてるなんて決めつけないでよ、失礼ね」
「……ごめん」
かみちゃんにあたしがそう見えたのは、間違いないだろう。
あのときそばにいた友だちも。でも、全員が同じように見えていたかは、わからない。眞帆や浅香がちがうと言ってくれるなら、もしかしたらちがうように思っていた子もいたかもしれない。
「中学のときの美久を知らないけど、そうじゃないって言い切れるよ、わたし」
「そんなに美久は器用じゃないよねえ。話聞いてる限り誰にでも笑って話してただけじゃないの? つまり嫉妬でしょ」
「浅香だって、彼氏にべったりの束縛彼女とか言われてるしね」
「仲がいいのを嫉妬してるだけでしょ。どうでもいいわ、そんなの」
知らなかった。ただただ羨ましいと思っていただけだ。
ぽかんとすると、ふたりは「そんなもんでしょ」と笑う。
ずっと、人は一面だけしか見られないんだと思っていた。
だから、裏があるんだと。
でも、見る人が違えば、見え方はかわってくる。
眞帆も、浅香も、同じだ。まわりがどう言おうとも、あたしにとってのふたりは、言いたいことをはっきり言う眞帆と、大人で落ち着きのある浅香だ。
今まであたしは、なんてくだらないことで自分をがんじがらめにしていたのだろう。気づいてしまえば、こんな簡単な、誰だってわかるようなことだったのに。
――景くんも。
もしかしたら景くんも、あたしをそんなふうに見てくれていたのかもしれない。
あたしですら知らなかったあたしを、見ていたのかもしれない。
でも、もう遅い。
あたしの背中を押してくれた景くんは、すっきりとした顔をしていた。
あたしたちはもう、終わったんだ。あたしが、終わらせた。
今回も。あたしが逃げたから。
顔が歪んでゆく。視界がじわじわと滲んでいく。
「で、美久はこのままでいいの?」
浅香があたしの顔をのぞき込んできた。なにを考えていたのか、きっとバレてしまったのだろう。
「眞帆に嫉妬するくらい好きなんでしょ? 別れたって言ってたけど」
「ちゃんと話せばー? また泣かれても困るしさあ。好きなんでしょ」
うん。
好きだ。
怖くて逃げるほど。
でも、いつまでそんなふうに自分を守るんだろう。もう、守るべきものはないのに。景くんはもうそばにいないのだから、なにをしたってこれ以上悪くなるはずがない。
あたしは、景くんとちゃんと話をしていない。ノートのことも、お互いの気持ちのことも、いつも、お互いに一方通行だった。
話したい。
ちがう。
伝えたい。
今さらなにを言っているのかと言われるかもしれないけれど、それでも。
好きだ。
言葉にするだけで、涙がじわりと浮かぶほど。