浅香が心底不思議そうに言った。

 あたしもそう思う。恥ずかしい姿を見られてしまい、羞恥で顔を上げることができない。ごもっともです、ともごもご言うと、眞帆が「ほんとだよー焦る!」と腰に手を当てて頬を膨らませた。

「っていうか眞帆が誤解させるようなことするから悪いんでしょ」
「たまたま会っただけだし」
「普段の行いよ。男にもてるアピールしてるから」

 なにそのアピール。
 目を瞬かせると、浅香は「美久は思ってなかったの」と失笑されてしまった。

 眞帆も浅香の言葉にとくに否定をしない。

「え、眞帆、アピールしてたの?」
「まさか。ただそう言われることは知ってただけ」

 なんでそう言われるのだろう。

「眞帆ってすぐに痴漢されたとか告白されたとか言うでしょ。あれを、私はモテるのよアピールをしている、って思う人が一定数いるってこと」

「マジウザい。痴漢の気持ち悪さ知らないんだよ、ほんっと最悪なのにさ」

 舌打ち混じりに眞帆が言う。
 今までそんなふうに受け取ったことがなかったので、目からうろこだ。

 でも、あたしにはそう見えなくても、ちがう人にはまたちがうのか。

 考えれば当たり前のことなのに、今はじめて納得した。

「眞帆は、気にならないの?」

 恐る恐る訊くと、眞帆は「気にしたところでイメージはかわんないから」とあっさりと否定した。

「そう思う人もいるし、そう思わない人もいるでしょ。美久みたいにヘラヘラ笑って誤魔化してくれる人がいるから、バカバカしくなったの」

 そ、それはどういう意味で受け取ればいいのか。
 笑って誤魔化していたことを口にされると、反応に困る。

「ご、ごめん」
「ちがう、笑ってていいんだよ、美久は。べつにそれでいいの。この前のは、ただの、八つ当たり」

 浅香が首を傾げてあたしを眞帆の会話に耳を傾けている。

「美久が親のことを言わないのは、美久の事情だから、べつにいいんだよ。ただ、なにも知らず言っていたわたしの言葉で、美久が傷ついたり気を遣ってたりしてたのかもしれない、っていうのが、いやなの」

 眞帆が、拗ねたようにあたしから目をそらして言った。
 そんな理由で怒っていたなんて、気づかなかった。

 でも、やっぱりあたしのせいだとも思う。

「言ってほしいっていうのは、わたしのワガママだからね」
「そんなこと……」
「その話を、朝に有埜くんとしてただけ。流れでね」

 そうだったんだ。
 眞帆の素直な気持ちに、うれしさが胸に広がる。

 なのにあたしは、なにも素直に伝えていない。
 笑っていてもいい、と眞帆は言ってくれたけれど、それは、眞帆がやさしいだけだ。その言葉に甘えていいわけじゃない。

「あたし、ぶりっこらしいの」

 ぎゅっと拳を作り、勇気を振り絞った。
 口の中がカラカラに乾いてくる。

 突然の告白に、眞帆は目を見開き、そばにいる浅香もぽかんと口をあけた。

「で、親の話も、同情を誘ってる、気を遣わせるって、言われたことがあって」

 だから言えなかった。
 できるだけその話題を避けるしかなかった。

「お母さんがいないって知られると、みんながかわいそうって空気を出すから、それがいやで、なんともないって、笑うようにしてたの。でも」

 しどろもどろで話すあたしの声に、ふたりは黙って耳を傾けてくれた。

 流行りが好きなこともそうだ。
 ミーハーだねって言われると、好きじゃないのに流行りだから気に入っていると、そう思われているみたいで複雑な気持ちだった。だから、笑った。いいじゃん、かわいいでしょ、と。そう言っていれば気にしなくて済んだから。

 だから、と必死に言葉を紡いだけれど、めちゃくちゃな説明だったのだろう。話が終わるとふたりはその後もしばらく口を閉じていた。

 そして、浅香が「なるほど」と呟く。

「それで男子を避けてたの?」

 うん、とうなずくと、浅香はしばらくあたしの顔を眺める。そして、「ねえ、ちょっとぶりっこ見せてよ」と言った。

 リクエストされると思っていなかった。

 ぶりっこ、ってどうするんだろう。上目遣いで見つめたらいいのかな? え、でもそんなことあたししてたっけ? そもそもあたし自覚はなかったし。

 えっと、えっと。