景くんが好きだと言ってくれるなら、あたしも景くんが好きなら、あのままつき合っていた方がよかったのかな。そんなバカみたいな後悔に襲われる。

 どうして、昔のようにケンカができないんだろう。お互いに言いたいことを言えないのだろう。そうしたら、お互いもう少し、我慢をせずにつき合えるはずなのに。そう考えたけれど、つき合ってからのあたしたちはいつだって遠慮ばかりしていた。自分の気持ちにも、相手の気持ちにも。

 ……あたしはいつまで同じことを繰り返すんだろう。

 景くんはもう、きっぱりとあたしに一区切りつけた。だからこそ、あたしも踏み出さなければいけないと思える。

 悲しむ資格なんて、あたしにはない。

「自分に腹が立ってきた」

 景くんから逃げて、自分の弱さからも逃げて、ずっと縮こまっているだけ。

 ――言いたいことを言えないのは、自分のせいなのに。



 とはいえ、いつまでも図書室でうじうじしているわけにはいかない。

 眞帆とも微妙な空気が続いているので、教室に行くのも気分が沈む。

 いつまでもこのままじゃいけない。でも、眞帆もあたしを避けているのか、休み時間のたびに姿が見えなくなる。きっと陣内くんのところにいるんだろう。

「わかってるし!」

 渡り廊下にさしかかったところで、眞帆の大きな声が聞こえて足が止まった。

 ちょうど今学校に来たところらしい。けれど、今日も陣内くんと一緒なのだろう。

「ならいいけど」

 そう思ったけれど、眞帆のとなりにいたのは、景くんだった。

「有埜くんに言われたくないんだけどなあ……」
「なんでだよ」
「結構お節介だよね、有埜くん」

 眞帆にそう言われた景くんは、肩をすくめて笑う。

 いつのまに仲良くなったんだろう。いや、陣内くんという共通の知り合いがいるし、一緒に出かけたことがあるので話をするのはおかしいことじゃない。それに、景くんが女子と話しているところだって、はじめて見るわけじゃない。それがたまたま、眞帆なだけだ。

 でも、ふたりの会話は、すごく、親しげだった。

 景くんの表情はどこかやさしそうに見える。それに態度もかなり自然だ。
 眞帆も、あたしの知っている気の強い眞帆だった。

 陣内くんの前では、もう少しかわいらしい。じゃあ、どうして今は素の眞帆なのだろう。景くんにはする必要がないから? でも、眞帆はどんな男子にも、あれほど砕けた物言いはしていなかったはずだ。

 ふたりが並んでいる姿を、見つめる。

 ねえ、陣内くんは? もしかして別れたとか?
 まさか、景くんと? いや、ふたりともそんなすぐにつき合ったり別れたりはしないはずだ。今までそんな話は聞いたことがない。

 でも、本気で好きになっていたら?