目の前でいちゃつくふたりを見る、昨日フラれたばかりのおれ。なんだこれ。
「本当の自分なんて、あってないようなもんなんだよ」
思わず、なるほど、と言葉がこぼれる。
「まあ多少は必要なんだろうけど、でもそれって、それで終わりじゃねえだろ」
「どういうこと」
なんだか陣内講座を聴いているように、おれとまほちゃんは身を乗り出して真面目に耳を傾けた。
「自分を取り繕うのは、いいところは伸ばして、悪いところを改善するためだろ」
そうか。言われてみればたしかにそうかもしれない。
美久に言われてからすっきりしなかったものがぽろぽろと剥がれ落ちていく。
「……でもそれって、簡単に隠せるもんじゃないよな」
ひとりごつと、ジンが「親しくなったら難しいんじゃね?」と言った。
そうだよな。
おれも、美久も。
ジンも、まほちゃんも。
「じゃあ、本当の自分を知ってほしいって思うのは、どう思う?」
完全にジンに教えを請うている状態だ。
でも、そのくらいジンはおれが考えたことのない考え方をしていた。
「いいところなら知ってほしいけど、悪いところなんか知られたくなくね? まあ、悪いところがなにかにもよるけど」
「わかる」
間髪を容れずにまほちゃんが相づちを打つ。
本当だな、と思う。
美久と交換日記のやり取りでも、そんな話をした。
本当の自分を好きになってほしい、と。
でも誰にも知られたくない、と。
「ウソを吐かずに隠すことはできるかもしれないけど、まあ難しいよな。だから、隠せねえんじゃね?」
おれが今まで見ていた美久と、ノートの中の美久は、別人のようだった。
でも、接してみれば同一人物だとわかる。
面倒くさそうなところも、満面の笑みも、必死にまわりに合わせるところも、流行りに目がないミーハーなところも。
「なあ、おれのイメージってどんなの?」
恐る恐るふたりに訊くと、ふたりは顔を見合わせて、
「知らない」とまほちゃんが答えて、
「考えすぎる真面目」とジンが言った。
なるほど。
まほちゃんの『知らない』に笑ってしまう。
そりゃそうか。まほちゃんとおれはそんなにしゃべったことがないもんな。知らないのは当たり前だ。
そしてジンの発言にも納得する。
女子に言われたイメージに囚われすぎていたんじゃないか、おれは。そう考えるとなんてバカバカしいのかと思った。
「じゃあ美久は?」
「美久は、要領が悪い」
「単純?」
ふたりの意見がまったくちがったことに、なぜかほっとした。
イメージなんてこのくらい、適当なもんだ。でも、かすっていないわけでもない。
おれは、美久のことを『わかったつもり』になっていた。
本当の自分なんて、自分でだってわからないのに。勝手にわかった気になって、相手に合わせようとしていた。
裏と表が、ウソとホントが、そこにはあるんだと思い込んで、勝手に美久の姿をふたつにわけて受け止めていたんじゃないか。
本当はもっと、曖昧なものだったのかもしれない。
じゃあ、おれが好きになった美久は、どんな美久なのだろう。
家に帰ってから、交換日記を机に広げる。
美久が書いていた言葉と、おれの見ていた美久を重ねるために。
同時に、このやり取りはもう終わらせたほうがいいのではないか、とも。
もう一度、美久と話をしたい。
美久がおれを好きじゃなくてもいい。
おれはちゃんと、美久に気持ちを伝えたい。
そのためには、このノートのことも言わないといけないだろう。
笑っていた美久が好きだった。
おれにとっては、美久の本音を知ったあとでも印象はかわっていない。かわったところはたしかにある。でも、やっぱり美久は美久だ。
だから、あのころのように笑ってほしいと思った。それは〝今〟の美久に。
おれに見せてくれた笑顔全てが、誤魔化すためのはずがないのだから。
「このままでいいわけあるか」
フラれたことにはかわりがないし、告白したところで再びつき合えるとは思っていない。好きだと言ってくれたけれど、おれと同じ意味ではないにちがいないから。
「本当の自分なんて、あってないようなもんなんだよ」
思わず、なるほど、と言葉がこぼれる。
「まあ多少は必要なんだろうけど、でもそれって、それで終わりじゃねえだろ」
「どういうこと」
なんだか陣内講座を聴いているように、おれとまほちゃんは身を乗り出して真面目に耳を傾けた。
「自分を取り繕うのは、いいところは伸ばして、悪いところを改善するためだろ」
そうか。言われてみればたしかにそうかもしれない。
美久に言われてからすっきりしなかったものがぽろぽろと剥がれ落ちていく。
「……でもそれって、簡単に隠せるもんじゃないよな」
ひとりごつと、ジンが「親しくなったら難しいんじゃね?」と言った。
そうだよな。
おれも、美久も。
ジンも、まほちゃんも。
「じゃあ、本当の自分を知ってほしいって思うのは、どう思う?」
完全にジンに教えを請うている状態だ。
でも、そのくらいジンはおれが考えたことのない考え方をしていた。
「いいところなら知ってほしいけど、悪いところなんか知られたくなくね? まあ、悪いところがなにかにもよるけど」
「わかる」
間髪を容れずにまほちゃんが相づちを打つ。
本当だな、と思う。
美久と交換日記のやり取りでも、そんな話をした。
本当の自分を好きになってほしい、と。
でも誰にも知られたくない、と。
「ウソを吐かずに隠すことはできるかもしれないけど、まあ難しいよな。だから、隠せねえんじゃね?」
おれが今まで見ていた美久と、ノートの中の美久は、別人のようだった。
でも、接してみれば同一人物だとわかる。
面倒くさそうなところも、満面の笑みも、必死にまわりに合わせるところも、流行りに目がないミーハーなところも。
「なあ、おれのイメージってどんなの?」
恐る恐るふたりに訊くと、ふたりは顔を見合わせて、
「知らない」とまほちゃんが答えて、
「考えすぎる真面目」とジンが言った。
なるほど。
まほちゃんの『知らない』に笑ってしまう。
そりゃそうか。まほちゃんとおれはそんなにしゃべったことがないもんな。知らないのは当たり前だ。
そしてジンの発言にも納得する。
女子に言われたイメージに囚われすぎていたんじゃないか、おれは。そう考えるとなんてバカバカしいのかと思った。
「じゃあ美久は?」
「美久は、要領が悪い」
「単純?」
ふたりの意見がまったくちがったことに、なぜかほっとした。
イメージなんてこのくらい、適当なもんだ。でも、かすっていないわけでもない。
おれは、美久のことを『わかったつもり』になっていた。
本当の自分なんて、自分でだってわからないのに。勝手にわかった気になって、相手に合わせようとしていた。
裏と表が、ウソとホントが、そこにはあるんだと思い込んで、勝手に美久の姿をふたつにわけて受け止めていたんじゃないか。
本当はもっと、曖昧なものだったのかもしれない。
じゃあ、おれが好きになった美久は、どんな美久なのだろう。
家に帰ってから、交換日記を机に広げる。
美久が書いていた言葉と、おれの見ていた美久を重ねるために。
同時に、このやり取りはもう終わらせたほうがいいのではないか、とも。
もう一度、美久と話をしたい。
美久がおれを好きじゃなくてもいい。
おれはちゃんと、美久に気持ちを伝えたい。
そのためには、このノートのことも言わないといけないだろう。
笑っていた美久が好きだった。
おれにとっては、美久の本音を知ったあとでも印象はかわっていない。かわったところはたしかにある。でも、やっぱり美久は美久だ。
だから、あのころのように笑ってほしいと思った。それは〝今〟の美久に。
おれに見せてくれた笑顔全てが、誤魔化すためのはずがないのだから。
「このままでいいわけあるか」
フラれたことにはかわりがないし、告白したところで再びつき合えるとは思っていない。好きだと言ってくれたけれど、おれと同じ意味ではないにちがいないから。