「眞帆ちゃんは悪くないだろ」
事情を絶対知らないくせに言い切るジンに、
「今ケンカ中なの」
とまほちゃんが答える。
「なんでケンカなんか……」
あんなに仲がよかったのに。
なにより、美久が友だちとケンカをする姿が想像できない。軽口を言い合うことはあるけれど、美久が誰かとケンカしたところを一度も見たことがない。
……美久が、笑っていたから。
拗ねることはあった。怒ることもある。でも――美久はいつもその感情を最後には笑って終わらせていた。そう気づいて、美久が言っていたことの本当の意味がわかる。
笑って誤魔化していた。
でも、本当に? それだけか?
まほちゃんは手を絡めてもじもじと動かす。
「いや、美久が悪いわけじゃなくて、わたしが一方的に。っていうか、浅香は美久を理解してやさしい言葉をかけるのに、わたしはできないからイラついて、ひとりで怒ってるだけ」
どうやら、それからほとんど美久とは口を利いていないらしい。
「美久は笑って誤魔化すよね、って言っちゃって、気まずい」
むうっと子どものように口を尖らせたまほちゃんは、怒っているというよりも後悔していて、どうしていいのかわからないのだと思った。
「なにが原因でそんなことになったわけ?」
なんて言うべきか悩んでいると、ジンがまほちゃんに聞くと「一昨日、親の話で責めちゃった」とまほちゃんは答えた。
一昨日、という言葉にはっとする。
美久が、泣いた日だ。あれは、まほちゃんとのことが原因だったのだろうか。
親の話、というのは、美久に母親がいないことだろう。
「ねえ、美久、気を遣われるのがきらいなの?」
「あー……いや、おれも、その辺はよくわかんないな」
でも、フラれたときの会話から考えると、そうなのかもしれない。
「ただ、まわりを、気にしてしまうっていうのは、言ってたかな」
いや、この話はしていいのだろうか。
口にしたあとに「しまった」と思ったけれど、もう取り消すことはできなかった。けれど、まほちゃんは「そっか」と小さな声で答えるだけで、特別驚いた様子はない。もしかしたら、普段の美久からなにかを感じていたのかもしれない。
なんとなく、三人のあいだにある空気が重くなる。
「眞帆ちゃんは隠されてたことに怒ってんの?」
「そういうわけじゃないんだけど。ただ、言ってほしかったっていうか、今までわたしの発言に我慢させていたのかなって。それをはっきり聞いたら、浅香にたしなめられて。それで余計に、わたしが悪いのかなって」
「べつに悪くないと思うけど」
ジンは首を捻るものの、実際それほど真剣に受け答えをしているようには見えなかった。というか、なんでそんなことでケンカになるかよくわかっていないのでは。
まあ、まほちゃんの気持ちも、ジンの気持ちもわかる。
そして、今、美久の気持ちも。
おれは美久に合わせた。無理をしているつもりはなかったけれど、自分の好きなものを我慢したのは間違いない。
もし、おれと美久の立場が逆なら、おれは、つき合えただろうか。
「なんでも言ってくれたらいいのよ、美久は。思うように振る舞えばいいじゃん」
「そりゃ無理だろ」
まほちゃんが頬を膨らませて文句を言うと、ジンがケラケラと笑った。それに対してまほちゃんがムッとした顔をする。まほちゃんってもっとこう、かわいらしいイメージだったけど、結構気がキツそうだ。
「なんでよ!」
「思うように振る舞ったらただの自己中じゃん」
ジンは怒られてもヘラヘラしている。
「それにまほちゃんだって、オレに思うように接してないっしょ」
そして、まほちゃんの図星を突く。
ジンは普段ヘラヘラしているくせに、とくに誰かを好きになると一直線でまわりが見えないくらい浮かれたやつになるのに、芯の部分は真面目でしっかり者だ。だからこそ、まほちゃんの怒りを軽くかわせるのだろう。
結構お似合いなんだな、このふたりは。
「だ、だって、それは」
「オレも眞帆ちゃんに好かれるためならいい男になろうって努力するし」
「わたしだって、きらわれたくないから、猫かぶる」
でしょー、とジンがデレデレした顔を見せた。
事情を絶対知らないくせに言い切るジンに、
「今ケンカ中なの」
とまほちゃんが答える。
「なんでケンカなんか……」
あんなに仲がよかったのに。
なにより、美久が友だちとケンカをする姿が想像できない。軽口を言い合うことはあるけれど、美久が誰かとケンカしたところを一度も見たことがない。
……美久が、笑っていたから。
拗ねることはあった。怒ることもある。でも――美久はいつもその感情を最後には笑って終わらせていた。そう気づいて、美久が言っていたことの本当の意味がわかる。
笑って誤魔化していた。
でも、本当に? それだけか?
まほちゃんは手を絡めてもじもじと動かす。
「いや、美久が悪いわけじゃなくて、わたしが一方的に。っていうか、浅香は美久を理解してやさしい言葉をかけるのに、わたしはできないからイラついて、ひとりで怒ってるだけ」
どうやら、それからほとんど美久とは口を利いていないらしい。
「美久は笑って誤魔化すよね、って言っちゃって、気まずい」
むうっと子どものように口を尖らせたまほちゃんは、怒っているというよりも後悔していて、どうしていいのかわからないのだと思った。
「なにが原因でそんなことになったわけ?」
なんて言うべきか悩んでいると、ジンがまほちゃんに聞くと「一昨日、親の話で責めちゃった」とまほちゃんは答えた。
一昨日、という言葉にはっとする。
美久が、泣いた日だ。あれは、まほちゃんとのことが原因だったのだろうか。
親の話、というのは、美久に母親がいないことだろう。
「ねえ、美久、気を遣われるのがきらいなの?」
「あー……いや、おれも、その辺はよくわかんないな」
でも、フラれたときの会話から考えると、そうなのかもしれない。
「ただ、まわりを、気にしてしまうっていうのは、言ってたかな」
いや、この話はしていいのだろうか。
口にしたあとに「しまった」と思ったけれど、もう取り消すことはできなかった。けれど、まほちゃんは「そっか」と小さな声で答えるだけで、特別驚いた様子はない。もしかしたら、普段の美久からなにかを感じていたのかもしれない。
なんとなく、三人のあいだにある空気が重くなる。
「眞帆ちゃんは隠されてたことに怒ってんの?」
「そういうわけじゃないんだけど。ただ、言ってほしかったっていうか、今までわたしの発言に我慢させていたのかなって。それをはっきり聞いたら、浅香にたしなめられて。それで余計に、わたしが悪いのかなって」
「べつに悪くないと思うけど」
ジンは首を捻るものの、実際それほど真剣に受け答えをしているようには見えなかった。というか、なんでそんなことでケンカになるかよくわかっていないのでは。
まあ、まほちゃんの気持ちも、ジンの気持ちもわかる。
そして、今、美久の気持ちも。
おれは美久に合わせた。無理をしているつもりはなかったけれど、自分の好きなものを我慢したのは間違いない。
もし、おれと美久の立場が逆なら、おれは、つき合えただろうか。
「なんでも言ってくれたらいいのよ、美久は。思うように振る舞えばいいじゃん」
「そりゃ無理だろ」
まほちゃんが頬を膨らませて文句を言うと、ジンがケラケラと笑った。それに対してまほちゃんがムッとした顔をする。まほちゃんってもっとこう、かわいらしいイメージだったけど、結構気がキツそうだ。
「なんでよ!」
「思うように振る舞ったらただの自己中じゃん」
ジンは怒られてもヘラヘラしている。
「それにまほちゃんだって、オレに思うように接してないっしょ」
そして、まほちゃんの図星を突く。
ジンは普段ヘラヘラしているくせに、とくに誰かを好きになると一直線でまわりが見えないくらい浮かれたやつになるのに、芯の部分は真面目でしっかり者だ。だからこそ、まほちゃんの怒りを軽くかわせるのだろう。
結構お似合いなんだな、このふたりは。
「だ、だって、それは」
「オレも眞帆ちゃんに好かれるためならいい男になろうって努力するし」
「わたしだって、きらわれたくないから、猫かぶる」
でしょー、とジンがデレデレした顔を見せた。