無理をしていたつもりはなかった。努力はしていた。かわろうと思って、行動していた。それはそんなに美久に負担をかけてしまうようなものだったのだろうか。

 美久のことを好きじゃないなんてことは、ない。ない、はず。
 でも。

 ――〝本当のあたしを好きになってくれる人なら きっとあたしもその人を好きになると思う〟

 おれは、本当の美久を知っていたんだっけ? 本当の美久ってなんだ。

 無理して笑っていることも知らなかったくせに。
 ノートで話をしたことで、わかった気になっていただけなのだろうか。

 傘を持つ手から力が抜けていく。
 なんで突然こんな話になっているんだろう。
 昨日まで、メッセージをしていたのに。デートもしたのに。


「別れよう」


 美久は笑顔でそう言った。

 雨が降りしきる中、いつの間にかおれはひとりになっていた。



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  なんでそんなこと言うんだよ
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  って言いたいところなんだけど
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  おれがだめなんだろうな
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  ちがう そうじゃない
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  あなたはそのままでいい
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  彼女に合わせることもしないでいいの
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  無理して観たい映画を我慢することもない
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  観たくない苦手な映画を観る必要もない
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  好きなものを
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  否定しなくてもいいんだよ
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  本屋をわざわざ避けなくてもいいんだよ
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「お前、雨がやんだのに暗いんだよ!」

 机に突っ伏していると、べしっとジンに頭を叩かれた。となりにはまほちゃんもいて「へこんでんの有埜くん」とケラケラと笑っている。

 今日はなぜか、ジンは文系コースの校舎に行かずに理系コースのこの教室にまほちゃんといる。っていうか、最近はずっとまほちゃんが教室にいる気がする。彼女と仲良しなのをアピールしているのだろうか。いやがらせだ。

 うるせえなあ、とそっぽを向いて、雨はやんだものの昨日からすっきりとはしていない曇り空を見つめる。

 昼休みに受け取ったノートを見る限り、美久はおれだと気づいたわけではなさそうだ。おれだとバレた様子もない。

 じゃあ、美久は、どういうつもりであの返事を書いたんだ。

「なにがあったの、そんなに落ち込んで」

 まほちゃんがおれではなくジンに聞く。

「瀬戸山とつき合って一週間でフラれたんだよ」

 とジンが明るい声で言った。落ち込んでるおれに容赦がないなジンは。

「え?」

 どうせまほちゃんも知っているのだろう、と思っていると、かなり驚かれた。そして「なんで?」と今度はおれに訊く。

「いや、なんでって、っていうか知らなかったのか?」

 あんなにいつも一緒にいるのに?
 おれの質問に、まほちゃんは顔をしかめて、額に手を当てた。動揺しているのかしばらくなにも言わず、ジンと顔を見合わせる。

「美久、秘密主義なのよ」

 怒っているのか困っているのか、まほちゃんの声がいつもより低い。

「ごめん、有埜くん、わたしのせいかもしれない」
「なんでまほちゃんが?」