そう思っているのに、手を離さないあたしは、ワガママなのかな。



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  彼女はそんなの
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  求めてないかもしれないじゃない
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  本当の自分を出してみたらどうかな?
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  彼女だってそのほうがうれしいよ
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  きっと 絶対
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 あの返事は、一体誰のために書いたのだろう。

 本当の自分を出してみたら、なんて、自分勝手にもほどがある。
 誰よりもあたしが、それをしていないのに。自分はしないくせに相手にそれを求めるなんてワガママじゃなくてただの傲慢だ。

 週明けの月曜日、朝から暗雲が広がっていて頭も体も重い。デートのあとから思考回路がぐちゃぐちゃのままなのは、この天候のせいだ。

 教室で机に突っ伏して時間を潰していると、

「どうしたの、美久」

 と、浅香がやってきてあたしに声をかけてきた。起きていたつもりだったけれど、うとうとしていたらしい。まだ数人しかいなかったはずの教室には、もう半分以上の生徒がいた。

「おはよ、大丈夫。眠いだけー」

 顔を上げて答えると、ちょうど教室に入ってきた眞帆と目が合う。

「あ、眞帆、おはよう」
「はよー」

 いつものように笑顔で挨拶を交わすと、眞帆は自分の席にカバンを置いてあたしの前の席に腰を下ろした。

「ねえねえ、美久。ひとつ訊きたいことあるんだけどさ」
「なに?」

 眞帆はにこやかにあたしの顔を見る。
 なんとなく、それがいつもと違って見えた。

「ねえ、美久の家って、お母さんいないの?」

 なんで、急に。
 思わず言葉を失う。

 なんで眞帆がそのことを知っているのか。

 考えればすぐに答えはわかる。陣内くんから聞いたのだろう。なにかの会話の流れで、そういう話になってもおかしくない。中学のころのあたしは母親がいないことを隠していなかった。だから、陣内くんにとっても隠すようなことだとは思わなかったのだろう。

「えっと、その」

 なんて説明すればいいだろう。
 隠していた理由を言うべきか、それともただ謝るべきか。
 でも、理由は言えない。言いたくない。
 中学のときのことは、説明したくない。

「なんでなにも言わなかったの?」

 眞帆の表情は、怒っている、わけではなかった。表情はいつも通りだ。けれど、あまりにも淡々と話をするので、怒っていないとも言い切れない。

「ごめん、その、気を遣わせるかなって」

 ビクビクしながら答えると、眞帆は「なにそれ」とため息をついた。

「意味わかんないんだけど。なんでそんなに怯えてんの? わたしってそんな怖い?」
「そういうわけじゃ」
「なんか事情があるんでしょ。べつにいいじゃん」

 むうっとする眞帆に戸惑っていると、浅香があいだに入ってきて言った。

「そうだけどさあ。浅香は気にならないわけ? ずーっと母親の話をしてても笑ってたんだよ? 言ってくれたらいいのにさあ」
「今わかったんだからそれでいいじゃない」

 眞帆の言葉に、浅香が不機嫌そうに眉を寄せた。まるで鏡のように、眞帆も眉間に皺を刻む。ふたりの空気が険悪になり、焦る。

「わたしに気を遣わせるからって美久が気を遣うとか意味わかんなくない?」

 たしかに、そういうことになるのか。
 いや、あたしは気を遣っていたわけではないのだけれど。でも。

「ひどいこと言ってたことになるじゃん、わたし」
「あの、そんなことないよ。ただ、わざわざ、言わなくてもいいかなって」

 母親がいないことは、あたしにとってたいしたことじゃない。だから、隠すことも苦ではなかった。そう伝わるように笑顔を見せた。

「だからって!」