「あーいた! どこ行ってたんだよ、景!」
あっという間に化粧品の話から最近面白いという話題の配信ドラマの話にかわっている友人たちをぼんやり眺めていると、クラスメイトの陣内――ジン――がドアを勢いよく開けておれの名前を呼んだ。
「急になんだよ、っていうかジンこそどこ行ってたんだよ」
「職員室。二時間目に没収されたゲーム機取り返しに行ってたんだよ」
無事返却してもらえたらしく、ジンはゲーム機を抱きしめている。
「よかったじゃん」
「いや、それだけじゃねえんだよ、聞いてくれよ!」
ずんずんと近づいてきたジンは、がっしりとおれの肩を掴み顔を近づける。至近距離に、ジンの彫りの深い濃い顔があり、それだけで胸焼けがしそうだ。
「なんなんだよ」
「オレ、一目惚れをしてしまった……!」
なんでそんなことをわざわざおれに報告してくるのか。
小学校からの腐れ縁であるジンの一目惚れ報告を聞くのは何度目だろうか。三、いや、五回目くらいか? それ自体は悪いことでもなんでもないのだけれど、ジンは元々情にも趣味にも熱すぎるところがあり、こと恋愛に置いてはそれがより一層顕著に出る。そしてそれが原因で恋愛では全敗している。
見た目はそんな悪くないのに、モテない。ドンマイ。
「まあ頑張れよ」
とりあえず声援を送ると、
「おう! で、景に頼みがあるんだ」
と言い出した。
顔をしかめると、ジンはぱんっと目の前で両手を合わせる。
これはマジのやつだ、とまわりの友人が面白そうな顔をしておれとジンの会話に耳を傾けている。
「なんだよ……おれにできることは少ねえぞ」
「景、文系クラスのまほちゃん、って知ってるか?」
「おれが女子のこと知るわけないだろ。しかも文系って。接点ねえし」
だよなあ、となぜかジンはうれしそうだ。
たぶん浮かれているだけだ。
「ショートカットで、目がくりっとしてて、小柄で、天使!」
天使とは。
そんなの見たことねえぞ。
「間違いなく彼女は天使だった。ぶつかったオレに、めちゃくちゃかわいく微笑んでくれたんだ。あの笑顔を見れば全員恋に落ちるはずだ」
ジンは胸に手を当てて、芝居がかった様子で話す。うっとりとした顔でどこかを見つめていて、まるで空から降臨してきたマリア様でも見えているんじゃないかと思った。いや、天使だったっけ。
ついっき一目惚れしたわりに、マジな顔だ。
「で、まずは友だちになろうと思って! そこで、景、お前の出番だ」
「いや、なんでそうなるんだよ」
全然話についていけない。
そもそもおれはその〝まほちゃん〟という女子のことをまったく知らないのに、なんでおれの出番なんだ。
「仲良くなりたいなら自分の力で話しかけろよ」
断るおれに、ジンは「安心しろ」と肩に手を置き、やさしく微笑んだ。
なんだその顔。なんかすげえムカつくんだけど。
「景がいないとダメなんだ。いや、べつに景にまほちゃんと仲良くなってほしいわけじゃねえから安心しろ。そんなのオレがいやだ」
ますます意味がわからない。
「景はまほちゃんのとなりにいるあいつに話しかけるんだ。オレひとりだったら、あいつとしか話ができないかもしれないだろ? それじゃ困る」
あいつ?
誰のことを言っているのかわからず首を傾げる。
「だから、そこで景があいつの相手をして、そのあいだにオレがまほちゃんに話しかけて、仲良くなるっていう計画だ!」
「いや、誰だよその〝あいつ〟ってのは」
「まほちゃんの友だちが、小学校から一緒の瀬戸山だから」
……瀬戸山って、瀬戸山美久? 美久のことか。
――いや、無理! 絶対無理! というかいやだ!
あっという間に化粧品の話から最近面白いという話題の配信ドラマの話にかわっている友人たちをぼんやり眺めていると、クラスメイトの陣内――ジン――がドアを勢いよく開けておれの名前を呼んだ。
「急になんだよ、っていうかジンこそどこ行ってたんだよ」
「職員室。二時間目に没収されたゲーム機取り返しに行ってたんだよ」
無事返却してもらえたらしく、ジンはゲーム機を抱きしめている。
「よかったじゃん」
「いや、それだけじゃねえんだよ、聞いてくれよ!」
ずんずんと近づいてきたジンは、がっしりとおれの肩を掴み顔を近づける。至近距離に、ジンの彫りの深い濃い顔があり、それだけで胸焼けがしそうだ。
「なんなんだよ」
「オレ、一目惚れをしてしまった……!」
なんでそんなことをわざわざおれに報告してくるのか。
小学校からの腐れ縁であるジンの一目惚れ報告を聞くのは何度目だろうか。三、いや、五回目くらいか? それ自体は悪いことでもなんでもないのだけれど、ジンは元々情にも趣味にも熱すぎるところがあり、こと恋愛に置いてはそれがより一層顕著に出る。そしてそれが原因で恋愛では全敗している。
見た目はそんな悪くないのに、モテない。ドンマイ。
「まあ頑張れよ」
とりあえず声援を送ると、
「おう! で、景に頼みがあるんだ」
と言い出した。
顔をしかめると、ジンはぱんっと目の前で両手を合わせる。
これはマジのやつだ、とまわりの友人が面白そうな顔をしておれとジンの会話に耳を傾けている。
「なんだよ……おれにできることは少ねえぞ」
「景、文系クラスのまほちゃん、って知ってるか?」
「おれが女子のこと知るわけないだろ。しかも文系って。接点ねえし」
だよなあ、となぜかジンはうれしそうだ。
たぶん浮かれているだけだ。
「ショートカットで、目がくりっとしてて、小柄で、天使!」
天使とは。
そんなの見たことねえぞ。
「間違いなく彼女は天使だった。ぶつかったオレに、めちゃくちゃかわいく微笑んでくれたんだ。あの笑顔を見れば全員恋に落ちるはずだ」
ジンは胸に手を当てて、芝居がかった様子で話す。うっとりとした顔でどこかを見つめていて、まるで空から降臨してきたマリア様でも見えているんじゃないかと思った。いや、天使だったっけ。
ついっき一目惚れしたわりに、マジな顔だ。
「で、まずは友だちになろうと思って! そこで、景、お前の出番だ」
「いや、なんでそうなるんだよ」
全然話についていけない。
そもそもおれはその〝まほちゃん〟という女子のことをまったく知らないのに、なんでおれの出番なんだ。
「仲良くなりたいなら自分の力で話しかけろよ」
断るおれに、ジンは「安心しろ」と肩に手を置き、やさしく微笑んだ。
なんだその顔。なんかすげえムカつくんだけど。
「景がいないとダメなんだ。いや、べつに景にまほちゃんと仲良くなってほしいわけじゃねえから安心しろ。そんなのオレがいやだ」
ますます意味がわからない。
「景はまほちゃんのとなりにいるあいつに話しかけるんだ。オレひとりだったら、あいつとしか話ができないかもしれないだろ? それじゃ困る」
あいつ?
誰のことを言っているのかわからず首を傾げる。
「だから、そこで景があいつの相手をして、そのあいだにオレがまほちゃんに話しかけて、仲良くなるっていう計画だ!」
「いや、誰だよその〝あいつ〟ってのは」
「まほちゃんの友だちが、小学校から一緒の瀬戸山だから」
……瀬戸山って、瀬戸山美久? 美久のことか。
――いや、無理! 絶対無理! というかいやだ!