どうにか景くんのあたしに対するイメージを拭えないだろうかと交換日記で試行錯誤してみたものの、なかなかうまくいかない。本当に景くんがノートで言う好きな子はあたしのことなのだろうか。実はちがう人のことを言っているのでは。
景くんとは少しずつメッセージでのやり取りも増えた。きっかけはデートの相談だったけれど、やっと他愛ない話もできるようになった。
でも、メッセージでの景くんは自分のことをなにも言わない。
景くんはあんまり動き回るのは好きじゃないから、と思い、映画を観に行こうと言うと、
『映画でいいの? テーマパークとか考えてたんだけど』
と返信があった。いや、テーマパークとが絶対苦手じゃん。たしかに今はクリスマスイベント中だけれど。パレードがすごくかわいいっていうウワサだけれど。行きたいけど。
あたしが好きそうなところを探してくれたのはありがたいけど、今回はだめだ。
『いや、映画がいいな!』
『美久がいいならいいけど。じゃあ映画のあとはぶらぶらする?』
ぶらぶらするのも好きじゃないのでは。
でも、あれもこれも否定するのはあまりよくないし、他になにができるのかも思いつかない。ランチとかカフェとかでのんびり過せばいい。その日はオシャレなカフェに目を奪われないようにしようと心に決める。
「とりあえず、予習は完璧、のはず」
土曜日の午後一時、待ち合わせ場所でひとりうなずく。
ふたりとも最寄り駅は同じなので駅前で会うことになった。目的地はここから快速急行で二十五分ほどの駅だ。映画館もあるしショッピングモールも百貨店も商店街もある。暇をもてあそぶようなことにはならないだろう。
コーヒーショップのガラスの前で、景くんの乗っているバスを待つ。
そのあいだに、ガラスに映る自分の姿を最終チェックする。
いつもと同じ、低い位置で右側に寄せてひとつに括られた髪の毛も、今日はできるだけかわいく見えるように毛先をヘアアイロンで遊ばせてきた。耳元はさりげなく編み込みをしている。普段の三倍時間がかかった。服装はベージュのサロペットに、白の七分丈のTシャツ、そして黒色のショート丈のトレンチコート。足下は白色のぺたんこスニーカーだ。
うん、大丈夫。
ほどよく気合いを感じて、ほどよくラフさもある。先月号の雑誌で見かけたコーディネイトを参考にしているので、きっと変ではないはずだ。それに、希美ちゃんに写メで確認もしてもらった。
かわいいと、思ってもらえたらいいなあ。
……景くんはどんな格好でくるだろう。
考えると、一気に緊張感が増した。心臓がばくばくしてきて、痛苦しい。やばい、呼吸も荒くなってきた。体中からどろりと汗が浮かんでくるのがわかる。
大丈夫、大丈夫だ。
細く長い息を吐き出して、心臓と呼吸を落ち着かせる。
「美久」
名前を呼ばれた瞬間、口から心臓が飛び出てきそうになった。
「お、おはよう!」
「おう」
元気いっぱい挨拶をしてしまった。けれど、景くんはいつもどおりだ。涼しい顔をして目の前に立っている。
景くんは、白いTシャツに、黒とグレーのチェックの厚手のシャツを羽織っている。細身のカーゴパンツに大きめのスニーカー、そしてワンショルダーのバッグ。そつなくまとめている感じが景くんって感じだ。シンプルなものばかりなのに、それが自分に一番似合うのを知っているに違いない。
かっこいいなぁ。
「私服かわいいな」
じいっと景くんの服装を観察していると、彼の口が動いた。