景くんがかわったのは、きっとこのノートのせいだ。あたしの好き勝手な意見を参考にやさしく振る舞ってくれている。
でも。
素直に受け止めて喜ぶことができない。
「……つき合ってよかったのか、やっぱりわかんないや」
今まで何度も呟いたセリフを、また口にする。
景くんは、あたしのことを誤解している。
本当のあたしを知ったら、きっと好きじゃなくなる。
なのに、あたしに合わせようとしてくれている。
――その気持ちを、どう受け止めればいいのか、わからない。
いい彼氏にならなきゃな、なんて思わなくてもいいのに。
たしかに、景くんはあたしのイメージとはちがった。
あたしの知っている、あたしがイメージしていた景くんは、大人っぽくて落ち着いた雰囲気はあるけれど、いつも誰かと一緒にいて、みんなで集まるのが好きな男子だった。
交換日記をするまで小説を読むことも知らなかったし、文具が好きなことも、ジャズを聴くことも知らなかった。女子ともよく話す姿を見かけたから、苦手だなんて知らなかった。運動ができるから体を動かすのが好きそうだし、インドア派とは思っていなかった。
あたしは、景くんのなにを知っていたのだろう。
なにが好きか、とか、考えたこともなかった。
自分のことしか考えていなかった。
むしろあたしは相手のなにを見て好きだと思ったんだろう。
今も昔も、あたしは流行っているものが好きだ。人気のスポットは、楽しそうだからいい。アクセサリーもかわいいと思った。ネイルや化粧品は毎年流行色があって、それを追いかける。みんなも好きだと言うから、あたしも好き。
まわりが、みんなが。
景くんのことも、そんな理由だったのかもしれない。
じゃあ、今、景くんが好きなのはどうしてなのかな。この気持ちは、本当に自分が見つけた、あたしだけのものなのかな。
自信がなくなる。
でも、だからといって、交換日記の景くんの本音を知って好きじゃなくなる、なんてこともない。むしろ――ほっとする。
「……わかんなくなってきた」
がっくりと項垂れる。
「昔からまわりに合わせてた、からっぽの人間だもんな、あたしは」
かみちゃんに言われる前から、ずっと。
景くんがいう、昔の笑顔も。だから、自分の気持ちもわからない。
情けない。
そんなあたしに合わせようとなんて、いい彼氏になろうとなんて、しなくていいんだよ、景くん。
「とりあえず、戻ろう」
棚から体を起こして、ノートをカバンに入れる。
こんな気分のときに返事は書かないほうがいい。
そうでなくても最近は前のように気軽に返事ができない。
隠し事をしている、言い換えればウソをついている状態ではどうしても気分がへこんでしまって、なにを書けばいいのかわからなくなる。それに、返事でボロを出すわけにはいかないし。交換日記の相手は見ず知らずの誰かでなければならない。
そのためにも、返事は一呼吸おくのが一番だ。
そのあいだにうじうじモードを振り払い、明るく、そしてさりげなく情報収集もしなければ。
あたしに合わせようとばかりされるのは心苦しい。
つき合ったのだから、お互い楽しく過ごしたい。
できれば、景くんが〝彼女〟にもなにか求めてくれたらいいんだけどなぁ。
むしろあたしが景くんに合わせるべきだ。
「景くんの中のあたしのイメージが美化されてるっぽいしのもなあ」
それが一番、引っかかっている。
過去二回つき合った時より、今が一番景くんから好かれていると感じる。
なのに、今までで一番、気が重い。
……変なの。
口にしたつもりだったのに、その言葉はどこにも届かずあたしの中にずしんと落ちてくる。
だめだな、あたし。
彼氏ができたんだから、ウキウキしなくちゃ。じゃないと、きっと景くんも気にしてしまう。
ぺちんと自分の頬を掌で軽く挟んで気持ちを入れ替える。
――と、忘れ物を思い出した。
明日英語の小テストがあるって言ってたはず。教科書机の中に入れっぱなしだ。
仕方ない、教室に戻ろう。あんまり点数悪いとちくりと嫌みを言われるからなあ。
でも。
素直に受け止めて喜ぶことができない。
「……つき合ってよかったのか、やっぱりわかんないや」
今まで何度も呟いたセリフを、また口にする。
景くんは、あたしのことを誤解している。
本当のあたしを知ったら、きっと好きじゃなくなる。
なのに、あたしに合わせようとしてくれている。
――その気持ちを、どう受け止めればいいのか、わからない。
いい彼氏にならなきゃな、なんて思わなくてもいいのに。
たしかに、景くんはあたしのイメージとはちがった。
あたしの知っている、あたしがイメージしていた景くんは、大人っぽくて落ち着いた雰囲気はあるけれど、いつも誰かと一緒にいて、みんなで集まるのが好きな男子だった。
交換日記をするまで小説を読むことも知らなかったし、文具が好きなことも、ジャズを聴くことも知らなかった。女子ともよく話す姿を見かけたから、苦手だなんて知らなかった。運動ができるから体を動かすのが好きそうだし、インドア派とは思っていなかった。
あたしは、景くんのなにを知っていたのだろう。
なにが好きか、とか、考えたこともなかった。
自分のことしか考えていなかった。
むしろあたしは相手のなにを見て好きだと思ったんだろう。
今も昔も、あたしは流行っているものが好きだ。人気のスポットは、楽しそうだからいい。アクセサリーもかわいいと思った。ネイルや化粧品は毎年流行色があって、それを追いかける。みんなも好きだと言うから、あたしも好き。
まわりが、みんなが。
景くんのことも、そんな理由だったのかもしれない。
じゃあ、今、景くんが好きなのはどうしてなのかな。この気持ちは、本当に自分が見つけた、あたしだけのものなのかな。
自信がなくなる。
でも、だからといって、交換日記の景くんの本音を知って好きじゃなくなる、なんてこともない。むしろ――ほっとする。
「……わかんなくなってきた」
がっくりと項垂れる。
「昔からまわりに合わせてた、からっぽの人間だもんな、あたしは」
かみちゃんに言われる前から、ずっと。
景くんがいう、昔の笑顔も。だから、自分の気持ちもわからない。
情けない。
そんなあたしに合わせようとなんて、いい彼氏になろうとなんて、しなくていいんだよ、景くん。
「とりあえず、戻ろう」
棚から体を起こして、ノートをカバンに入れる。
こんな気分のときに返事は書かないほうがいい。
そうでなくても最近は前のように気軽に返事ができない。
隠し事をしている、言い換えればウソをついている状態ではどうしても気分がへこんでしまって、なにを書けばいいのかわからなくなる。それに、返事でボロを出すわけにはいかないし。交換日記の相手は見ず知らずの誰かでなければならない。
そのためにも、返事は一呼吸おくのが一番だ。
そのあいだにうじうじモードを振り払い、明るく、そしてさりげなく情報収集もしなければ。
あたしに合わせようとばかりされるのは心苦しい。
つき合ったのだから、お互い楽しく過ごしたい。
できれば、景くんが〝彼女〟にもなにか求めてくれたらいいんだけどなぁ。
むしろあたしが景くんに合わせるべきだ。
「景くんの中のあたしのイメージが美化されてるっぽいしのもなあ」
それが一番、引っかかっている。
過去二回つき合った時より、今が一番景くんから好かれていると感じる。
なのに、今までで一番、気が重い。
……変なの。
口にしたつもりだったのに、その言葉はどこにも届かずあたしの中にずしんと落ちてくる。
だめだな、あたし。
彼氏ができたんだから、ウキウキしなくちゃ。じゃないと、きっと景くんも気にしてしまう。
ぺちんと自分の頬を掌で軽く挟んで気持ちを入れ替える。
――と、忘れ物を思い出した。
明日英語の小テストがあるって言ってたはず。教科書机の中に入れっぱなしだ。
仕方ない、教室に戻ろう。あんまり点数悪いとちくりと嫌みを言われるからなあ。