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おれが彼女に望むのは
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笑っていてほしい
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ってくらいかな
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明るくて前向きな子だから
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昔のようにいつも笑っていてほしい
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そのためにいい彼氏にならなきゃな
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景くんの言う〝いい彼氏〟ってなんなんだろう。
放課後の図書室で、ノートを広げたまま考える。
あたしにとって、ということだろうか。あたしは、どんな彼氏がほしかったのだろう。
それに。
「明るくて前向きな子、って、誰のことよ」
失笑が漏れる。
景くんにはあたしはそう見えているってことだろうか。
昔のあたしを知っていると、そう思っても仕方がないかもしれない。でも、本当に? あたしは明るくて前向きなの?
一生懸命笑っていた過去と、それが自分の想いも寄らないイメージにつながっていたことを思い出すと、むなしくなる。
あたしは、景くんがイメージするような人間じゃない。
本当に明るくて前向きな子であれば、交換日記なんて続けていない。相手が景くんだと知ってしまったのに、自分の名前も伝えず、景くんだと気づいたことも言わず、なにも知らないふりをして彼の本音を盗み見ているあたしは、最低だ。
あの日、景くんとつき合うことになった日、交換日記の相手は景くんなのかもしれない、と気づいた。でも、確証があるわけじゃない。まずはちゃんと真実をたしかめなければ、とその日の昼休み、あたしは図書室にずっと隠れていた。あたしに会いに景くんがクラスに来るかもしれないと思ったけれど、、それよりもノートの相手が誰かのほうがあたしにとっては重要なことだ。
心臓をずっとバクバクさせながら、やり取りをしている棚が見える場所で気配を消しながら過ごした。
そして、昼休みが終わる直前、景くんは図書室にやってきた。
ノートを棚から抜き取り、あたりを見渡してから出ていく。そして、再びノートを元の位置に戻して帰った。
ノートには、彼の返事が書かれた印の水色の付箋が貼られていて、そのページには彼の文字が綴られていた。
やっぱり、景くんがノートのやり取りの相手だった。
信じられない。なんで、こんなことに。こんなたくさんの生徒がいる学校内で、交換日記の相手が景くんだなんて、どんな確率だ。
本当に、景くんなのか、実際目にしても信じられなかった。だって、ノートに書かれている内容があたしの知っている景くんのイメージからかけ離れすぎている。
でも、今までのノートでの会話がウソだとは思えない。
あたしは、誰にも言えない想いを書いた。
景くんも、同じだったんだ。
……っていうか、あたし初っぱなに、景くんの名前と一緒にきらいって書いてなかったっけ? なんでその本人があんな親切な返事を書いたんだ。そのせいで景くんが相手だとは、これっぽっちも想像してなかった。
「まいったなあ」
はあ、とため息をついて床に座り込んだ。
理系コースはまだ七時間目の授業中なので、この時間だけは気を抜いて図書室に居座ることができる。
景くんは、やり取りの相手があたしだとは気づいていない。あたしにあけすけに話し、訊いてくるのは、なにも知らないからだ。
だとすれば、あたしだけが秘密を暴いてしまったことになる。
このままでいいわけがない。相手の本心をこそこそのぞき込むような行為は、だめだ。逆の立場なら絶対いや。そんなことされたら最悪だ。
でも、正直に正体を明かす――のは、無理。あたしがこんなことを言っていたのだと知られるのは恥ずかしすぎる。いたたまれない。それに、きらいとか言っちゃったし。八つ当たりだったんだと弁明して、信じてもらえなかったら……・。
やめないと。
やめないと。
何度もそう思って決意をしたのに、あたしは未だ名乗りもせず、景くんのことを知らないふりをして返事を書き続けている。
――本当の景くんを、知りたいから。
つき合わないか、と教室の真ん中で堂々と言ってくれた景くんを思い出す。ノートのことや、つき合って本当によかったのかをちゃんと景くんと話そうと決めて、帰りを待って一緒に帰った放課後のことも。
告白はうれしかった。でも、景くんは本気であたしのことを好きなわけじゃないと思っていた。だって、突然すぎる。少し前まであたしを気にしもしていなかったはずなのに、いったいどんな心境の変化があったのかと不思議で仕方がない。
景くんは、あたしに同情してくれただけ。
そう思った。
ノートの相手が景くんだとわかるまでは。
「本当にあたしのことを好きでいてくれるんだ……」
信じられない。信じられないくらいうれしい。
うれしいのに、どんどん罪悪感が大きくなる。
小学校や中学校の時つき合った景くんと、今の景くんは全然ちがう。好きだと言葉にしてくれたことはなかったし、デートにだって一度も誘ってくれなかった。今までの景くんがノートに書いた返事を見れば、彼のその言動は納得できる。
なのに、今の景くんは何度もあたしに好きだと言ってくれる。わざわざ教室にまで来て、出かけようとあたしを誘ってくれた。
――あたしのために。