質問に質問を返された。
 おれの行きたいところ、か。ぱっと浮かんだのは家だけれど、それはちがう。

「おれより美久は?」
「今は思いつかないなあ」

 意外な返事だ。美久ならあれもこれもといろんな場所を候補に挙げると思い込んでいた。もしや、おれを試しているとか? あり得るな。いや、まだ微妙な関係だから気を遣っているのかも。

「じゃあ、なんか考えて、またメッセージするよ。あ、昼からでいいよな」
「うん、大丈夫」

 とりあえず、今日すべきことは達成した。
 あとは土曜日までになんとか美久に相談しつつ行き先を決めればいい。

「ありがと、景くん」
「なんでお礼?」
「……なんとなく?」
「デートが楽しかったときに言って」

 さらりと言えば、美久はまた顔を赤くした。

 そして、少し悔しそうにしながら「じゃあ景くんが楽しかったときもあたしに言ってよね」と言い返す。こうして軽口を叩いてくれるとほっとする。

「もちろん」

 笑みがこぼれる。



 美久と話を終わらせて、ジンをまほちゃんの元に置いて理系コースの校舎に戻った。けれど、教室に戻る前に、人気のない階段で腰を下ろす。

 今朝受け取ったノートの返事を書かないといけない。五時間目がはじまる直前に図書室に行ってくれば、美久と鉢合わせることもないだろうし、放課後にノートを受け取ってくれるはずだ。

 念のためきょろきょろとあたりを見渡し、ポケットに忍ばせていたノートを開く。

「あれ」

 美久の返事が書かれたページの裏に書き込もうとめくると、美久の文字が書かれていた。今朝見た内容には続きがあったらしい。



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  あなた自身は
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  彼女に望むことはないの?
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 おれが美久に望むこと。
 そんなの、あるんだろうか。

 ノートを見つめながら考えて見たけれど、楽しそうにしてくれていたらそれでいいよな、と思った。だから、彼女の望むことをしてあげたい。

 そのためなら、ウソなんていくらでもつけるし、自分を誤魔化したっていい。


 美久はなんで、こんなことを訊いてきたんだろう。