「いや、サプライズは諸刃の剣だから。そこを押さえるのが、有埜くんなのよ」
「こんなの常識だろ、みたいな雰囲気でさらっとね!」
「……マジで思ってんの?」
勝手に盛り上がる女子に聞く。なんかすげえめちゃくちゃ難しいこと言われてねえか、おれ。サプライズとは。
「イメージの話じゃん」
おれの純粋な疑問に、女子は不遜な顔をした。意味がわからん。
「じゃあ、おれがもしもイメージとちがうことしたらどうすんだよ」
「幻滅するかなあ」
……せめて数秒は考えてほしかった。
勝手なことばっかりいいやがって。
「でも幻滅されてなんか困る? 仕方なくない?」
「遅かれ速かれだよねえ。そのうち陣内くんだってまほちゃんに幻滅されるから」
「別れるってことか」
シビアだなあ。
呟くと女子は「それとこれとはべつなんじゃない?」とあっけらかんと言った。
「友だちでも恋人でも普通にあることじゃん。逆もあるわけだし」
「たしかに」
そう言われるとその通りだ。
心なし、気が軽くなった。
今までこういう話をするとき、女子に厳しいことを言われているジンを見ていて怖いなと思っていたけれど、裏を返せば率直な意見でアドバイスしていたんだと思わないでもない。
「陣内くんはわかれてほしいけど。のろけがウザい」
いや、やっぱり怖いな。
とりあえずサプライズはあまりしないほうがいい、というのはわかった。どこに行くか秘密、とかは言語道断らしい。スカートをはいていいのか、靴はなにが適しているのか、という悩みを相手に与えてしまうのだと女子たちが言った。
なるほど、わからん。
サプライズでなにしても許されるのはイケメンと金持ちらしい。サプライズプレゼントもいらないものを貰うと最悪だと全員が口をそろえて言った。
「本人に聞いた方がいいってことか」
「でもさあ、かといって一から十まで聞かれてその通りにされてもやだよねえ」
「そっちも少しは考えてよ、てなるよね」
結局おれはどうしたらいいんだ。
〝気負わなくてもいいと思うけどな〟
美久はそうノートで言っていた。
ただ、あれはおれではない誰かのための言葉なので、真に受けるわけにはいかないよな。今までの美久の書いた返事と女子たちの意見を参考にして……。
難しすぎる。できる気がしない。
でも、それで美久が笑うかもしれないなら、仕方ない。
本当はデートコースやらなにやらを決めてから美久を誘おうと思っていた。
でも、女子たちの意見を聞いた今では、おれが勝手に決めるべきじゃないと、まずは美久と約束することにした。期限がなければずっと考え込んでしまうだろうし、いつまでも今のつき合ってるわりになにもしてないというのもよくないし。早めに出かけたほうがいいだろう。
昼休みにジンと一緒に文系コースに向かい、教室にいた美久を廊下に連れ出す。
「美久、週末出かけないか?」
いつもの廊下のすみで向かい合う美久は、ぽかんと口を開けておれを見ている。
「わざわざ連れ出すから何事かと思った」
「ジンがうるさそうだろ」
「たしかに」
美久の言うように、ふたりきりになってあらためて言うことでもないのはわかっているんだけど、ジンがそばにいると女子に相談していたことを暴露されそうだからな。それはダサい。っていうかハズい。
「デート、ってことだよね」
「まあ、そうだな」
緊張を悟られないように意識しながら返事をする。
美久は顔を真っ赤にして、少しだけ、本の少しだけ、うれしそうに口の端を持ち上げていた。
その表情に、おれも少し、顔が赤くなる。
なんか、つき合ってるんだなあと実感する。
小学校のころはもちろん、中学の時でもこんな気持ちにはならなかった。
メッセージで訊くという案もあったけれど、こうして直接会って誘ってよかった。じゃなければ、美久がこんな顔をしていることに気づけなかっただろう。
「土曜日が、いいかなと思ってるけど」
口元がだらしなく緩みそうで、手で覆う。
「どう?」
なにも言わない美久にもう一度訊くと、美久ははっとして目を見開き、こくこくとうなずいた。
「どこか行きたいところある?」
「そうだなあ……景くんはどこに行きたいの?」
「こんなの常識だろ、みたいな雰囲気でさらっとね!」
「……マジで思ってんの?」
勝手に盛り上がる女子に聞く。なんかすげえめちゃくちゃ難しいこと言われてねえか、おれ。サプライズとは。
「イメージの話じゃん」
おれの純粋な疑問に、女子は不遜な顔をした。意味がわからん。
「じゃあ、おれがもしもイメージとちがうことしたらどうすんだよ」
「幻滅するかなあ」
……せめて数秒は考えてほしかった。
勝手なことばっかりいいやがって。
「でも幻滅されてなんか困る? 仕方なくない?」
「遅かれ速かれだよねえ。そのうち陣内くんだってまほちゃんに幻滅されるから」
「別れるってことか」
シビアだなあ。
呟くと女子は「それとこれとはべつなんじゃない?」とあっけらかんと言った。
「友だちでも恋人でも普通にあることじゃん。逆もあるわけだし」
「たしかに」
そう言われるとその通りだ。
心なし、気が軽くなった。
今までこういう話をするとき、女子に厳しいことを言われているジンを見ていて怖いなと思っていたけれど、裏を返せば率直な意見でアドバイスしていたんだと思わないでもない。
「陣内くんはわかれてほしいけど。のろけがウザい」
いや、やっぱり怖いな。
とりあえずサプライズはあまりしないほうがいい、というのはわかった。どこに行くか秘密、とかは言語道断らしい。スカートをはいていいのか、靴はなにが適しているのか、という悩みを相手に与えてしまうのだと女子たちが言った。
なるほど、わからん。
サプライズでなにしても許されるのはイケメンと金持ちらしい。サプライズプレゼントもいらないものを貰うと最悪だと全員が口をそろえて言った。
「本人に聞いた方がいいってことか」
「でもさあ、かといって一から十まで聞かれてその通りにされてもやだよねえ」
「そっちも少しは考えてよ、てなるよね」
結局おれはどうしたらいいんだ。
〝気負わなくてもいいと思うけどな〟
美久はそうノートで言っていた。
ただ、あれはおれではない誰かのための言葉なので、真に受けるわけにはいかないよな。今までの美久の書いた返事と女子たちの意見を参考にして……。
難しすぎる。できる気がしない。
でも、それで美久が笑うかもしれないなら、仕方ない。
本当はデートコースやらなにやらを決めてから美久を誘おうと思っていた。
でも、女子たちの意見を聞いた今では、おれが勝手に決めるべきじゃないと、まずは美久と約束することにした。期限がなければずっと考え込んでしまうだろうし、いつまでも今のつき合ってるわりになにもしてないというのもよくないし。早めに出かけたほうがいいだろう。
昼休みにジンと一緒に文系コースに向かい、教室にいた美久を廊下に連れ出す。
「美久、週末出かけないか?」
いつもの廊下のすみで向かい合う美久は、ぽかんと口を開けておれを見ている。
「わざわざ連れ出すから何事かと思った」
「ジンがうるさそうだろ」
「たしかに」
美久の言うように、ふたりきりになってあらためて言うことでもないのはわかっているんだけど、ジンがそばにいると女子に相談していたことを暴露されそうだからな。それはダサい。っていうかハズい。
「デート、ってことだよね」
「まあ、そうだな」
緊張を悟られないように意識しながら返事をする。
美久は顔を真っ赤にして、少しだけ、本の少しだけ、うれしそうに口の端を持ち上げていた。
その表情に、おれも少し、顔が赤くなる。
なんか、つき合ってるんだなあと実感する。
小学校のころはもちろん、中学の時でもこんな気持ちにはならなかった。
メッセージで訊くという案もあったけれど、こうして直接会って誘ってよかった。じゃなければ、美久がこんな顔をしていることに気づけなかっただろう。
「土曜日が、いいかなと思ってるけど」
口元がだらしなく緩みそうで、手で覆う。
「どう?」
なにも言わない美久にもう一度訊くと、美久ははっとして目を見開き、こくこくとうなずいた。
「どこか行きたいところある?」
「そうだなあ……景くんはどこに行きたいの?」