誘いを断らないのも同じ理由だ。面倒だから。なんで、とか用事あるの、という質問に対応するくらいなら、一緒に遊んだほうが楽だ。ひとりの時間が好きだけれど、友だちと遊ぶのがきらいなわけではないし。参加すればそれなりに楽しい時間になるのも知っている。
っていうか、人のこと言えないくらい、女子たちもよく遊んでるけどな。
ボーリングで勝負しようぜ、という話で盛り上がる友人たちをぼんやりと眺めながら、苦手ないちごオレを飲む。口に含むたびに、美久が脳裏をよぎる。
そこに、ひとりの女子がおれの顔をのぞき込む。
「つき合いいいくせに、妙にクールだよねえ、有埜くん」
女子がぽつんと呟いた。
「なんだそれ」
「うーん、なんだろう、壁を感じる?」
「そんなことないだろ」
はは、と笑って答えながら、内心ではバレてることに若干驚く。
彼女の言うように、おれは女子のことが苦手だ。なにを話せばいいのかよくわからず、グループではそれなりに同じネタで笑って過ごすけれど一対一ではほとんど絡んでいない。
思ったことをはっきり口にしてしまう性格なので、幼いころから女子をよく泣かせていた。そのせいで母親にしょっちゅう怒られていたけれど、そうなったのは毎日のようにケンカをしていた三歳年上の姉が原因だと思う。なにを言っても五倍十倍にして言い返してくる、おれを完全に言い負かす姉と過ごしたせいで、それが普通になっていたのだ。まさか『おもしろくないからいい』とか『それのなにがかわいいんだよ』とか言うくらいで泣くとは思わなかった。
どの程度までなら言っていいのかさっぱりわからず、男子とばかり一緒にいて、女子と話すのを避けるようになった。
その結果、『景くんはひどいことを言うからきらい』にくわえて、『しゃべらないからつまんない』ときらわれ避けられた。泣かれるよりマシだ。
けれど、美久はちがった。
美久は姉ほどじゃないけれど、思ったことを好きに口にして、おれがなにを言っても怒ることはあったが泣くことはなかった。女子とそれなりに話せるようになったのは美久と仲良くなったからだと思う。
それからだろうか、よくわからんがおれはモテはじめた。
おれの身長が伸びてきたからとか、それに伴い走るのが速くなったからとか、スポーツはなにをしても平均以上にこなすことができとか、バスケ部で活躍していたとか、そういう理由だろう。っていうか、女子がそう言っていた。
昔に比べて女子とも話をするようになったから、怖いイメージを抱かれることはなくなり、元々あまり感情表現が豊かなほうではなかったことが、クールで落ち着いている、大人っぽいと思われるようになった。遊びの誘いは断らないが、知らない女子がいるときは断るのも、チャラチャラしていなくていいらしい。
つまりは、おれの面倒くさがりな性格が、みんなに誤解を与えたということだ。
みんな――美久も――おれを誤解している。
見えているおれだけで、間違ったイメージを抱いている。
本当のおれはただの面倒くさがりだ。
誘いを断らないのも面倒だから。知らない女子とは遊ばないのも面倒だから。そして、――おれが自分の趣味を男友だちにすら言っていないことも。
約束がなければおれは、休日は家から一歩も外に出たくないほどのインドア派だ。本を読んだり、絵を描いたり、映画を観たりする〝ひとりの時間〟がなにより好きで、流行りものには一切興味がない、どちらかと言えばマニアックなジャンルのものを好む。
夏になればキャンプ、冬になればスノボに行く。でも、実際は快適な室内にいるほうが好きだ。汗をかくのも寒さに耐えるのもきらいだ。
好きなものがあふれている自室の中にならば、何時間でも何日でも満足できる。というかむしろそうしたい。ベッドの上で惰眠をむさぼり、ラジオをぼーっと聞いているだけ楽しい。
それが、本当のおれだ。
――『思ってたのと、ちがう』
ふと、二度目の別れの前に前に美久から届いたメッセージの文面が脳裏に浮かんだ。
〝あー 彼氏がほしい 誰でもいいからつき合ってくれないかな〟
そして、さっきのノートの文字を思いだす。
やめとけ、名前も知らない誰かよ。適当につき合っても時間の無駄だ。
なにもかもわかり合えてからつき合え、とまでは言わないが、多少なりも本来の姿をお互いに理解していなければ、遅かれ速かれ迎える結末は別れだけだ。おれが実証済みだ。
だからこそ、おれは美久と別れてから、すべての告白を断っている。
誰かとつき合う、ということほど今のおれにとって面倒なことはない。
「今年のクリスマスコスメ予約したの?」
「かわいーよねえ。今流行りの色が揃ってるところもいい」
「っていうかパッケージがいい」
女子たちが盛り上がっている様子を眺める。そばにいる男子は「なにそれ」「化粧品ってたっけえ」と茶々を入れていて、それに対して女子が「わかってないなあ」と冷めた目をしていた。
たしか姉ちゃんも同じようなことを毎年冬が近づくと言っている。毎年毎年限定のなにかをほしがる理由がおれにはよくわかんねえ。姉ちゃんが言うには毎年流行りの色がちがうからとかなんとか。なんだって流行りを追いかけるのか。
ミーハーな美久も同じようなことを言っているに違いない。
女友だちが口にしているのは気にならないけれど、自分の彼女だったら面倒だなと、うんざりする。しかもそういう態度を取ったら文句言われそうなのも無理だ。
っていうか、人のこと言えないくらい、女子たちもよく遊んでるけどな。
ボーリングで勝負しようぜ、という話で盛り上がる友人たちをぼんやりと眺めながら、苦手ないちごオレを飲む。口に含むたびに、美久が脳裏をよぎる。
そこに、ひとりの女子がおれの顔をのぞき込む。
「つき合いいいくせに、妙にクールだよねえ、有埜くん」
女子がぽつんと呟いた。
「なんだそれ」
「うーん、なんだろう、壁を感じる?」
「そんなことないだろ」
はは、と笑って答えながら、内心ではバレてることに若干驚く。
彼女の言うように、おれは女子のことが苦手だ。なにを話せばいいのかよくわからず、グループではそれなりに同じネタで笑って過ごすけれど一対一ではほとんど絡んでいない。
思ったことをはっきり口にしてしまう性格なので、幼いころから女子をよく泣かせていた。そのせいで母親にしょっちゅう怒られていたけれど、そうなったのは毎日のようにケンカをしていた三歳年上の姉が原因だと思う。なにを言っても五倍十倍にして言い返してくる、おれを完全に言い負かす姉と過ごしたせいで、それが普通になっていたのだ。まさか『おもしろくないからいい』とか『それのなにがかわいいんだよ』とか言うくらいで泣くとは思わなかった。
どの程度までなら言っていいのかさっぱりわからず、男子とばかり一緒にいて、女子と話すのを避けるようになった。
その結果、『景くんはひどいことを言うからきらい』にくわえて、『しゃべらないからつまんない』ときらわれ避けられた。泣かれるよりマシだ。
けれど、美久はちがった。
美久は姉ほどじゃないけれど、思ったことを好きに口にして、おれがなにを言っても怒ることはあったが泣くことはなかった。女子とそれなりに話せるようになったのは美久と仲良くなったからだと思う。
それからだろうか、よくわからんがおれはモテはじめた。
おれの身長が伸びてきたからとか、それに伴い走るのが速くなったからとか、スポーツはなにをしても平均以上にこなすことができとか、バスケ部で活躍していたとか、そういう理由だろう。っていうか、女子がそう言っていた。
昔に比べて女子とも話をするようになったから、怖いイメージを抱かれることはなくなり、元々あまり感情表現が豊かなほうではなかったことが、クールで落ち着いている、大人っぽいと思われるようになった。遊びの誘いは断らないが、知らない女子がいるときは断るのも、チャラチャラしていなくていいらしい。
つまりは、おれの面倒くさがりな性格が、みんなに誤解を与えたということだ。
みんな――美久も――おれを誤解している。
見えているおれだけで、間違ったイメージを抱いている。
本当のおれはただの面倒くさがりだ。
誘いを断らないのも面倒だから。知らない女子とは遊ばないのも面倒だから。そして、――おれが自分の趣味を男友だちにすら言っていないことも。
約束がなければおれは、休日は家から一歩も外に出たくないほどのインドア派だ。本を読んだり、絵を描いたり、映画を観たりする〝ひとりの時間〟がなにより好きで、流行りものには一切興味がない、どちらかと言えばマニアックなジャンルのものを好む。
夏になればキャンプ、冬になればスノボに行く。でも、実際は快適な室内にいるほうが好きだ。汗をかくのも寒さに耐えるのもきらいだ。
好きなものがあふれている自室の中にならば、何時間でも何日でも満足できる。というかむしろそうしたい。ベッドの上で惰眠をむさぼり、ラジオをぼーっと聞いているだけ楽しい。
それが、本当のおれだ。
――『思ってたのと、ちがう』
ふと、二度目の別れの前に前に美久から届いたメッセージの文面が脳裏に浮かんだ。
〝あー 彼氏がほしい 誰でもいいからつき合ってくれないかな〟
そして、さっきのノートの文字を思いだす。
やめとけ、名前も知らない誰かよ。適当につき合っても時間の無駄だ。
なにもかもわかり合えてからつき合え、とまでは言わないが、多少なりも本来の姿をお互いに理解していなければ、遅かれ速かれ迎える結末は別れだけだ。おれが実証済みだ。
だからこそ、おれは美久と別れてから、すべての告白を断っている。
誰かとつき合う、ということほど今のおれにとって面倒なことはない。
「今年のクリスマスコスメ予約したの?」
「かわいーよねえ。今流行りの色が揃ってるところもいい」
「っていうかパッケージがいい」
女子たちが盛り上がっている様子を眺める。そばにいる男子は「なにそれ」「化粧品ってたっけえ」と茶々を入れていて、それに対して女子が「わかってないなあ」と冷めた目をしていた。
たしか姉ちゃんも同じようなことを毎年冬が近づくと言っている。毎年毎年限定のなにかをほしがる理由がおれにはよくわかんねえ。姉ちゃんが言うには毎年流行りの色がちがうからとかなんとか。なんだって流行りを追いかけるのか。
ミーハーな美久も同じようなことを言っているに違いない。
女友だちが口にしているのは気にならないけれど、自分の彼女だったら面倒だなと、うんざりする。しかもそういう態度を取ったら文句言われそうなのも無理だ。