たらればだ。くだらない自己満足の後悔だ。
美久がそれを望んでいたのかどうかも知らないのだから。
その結果が、あの告白だ。
あの瞬間だけでもいいから、美久の不安を払拭したいと思った。
無意識に近い行動だったけれど、今思い返せば、あれでよかったとも思う。
たとえそれが、美久の弱みにつけ込んだものだとしても。
おれとつき合えば、美久の不安をひとつ、忘れることができる、と。
おれのことが好きじゃないくせに、美久は『つき合う』と言ってくれた。おれが提案したような理由ではないと言葉を添えて、おれの手を取ってくれた。
ノートでおれを名指しできらいだと書いていたくらいだから、誰でもいいからつき合いたいと言いつつ、おれは対象外なのではないかと思っていたので、ほっとした。
どんな理由であれ、つき合うことになった。
今はそれでいい。
今はおれのことが好きじゃなくてもいい。
「これから挽回すればいいからな」
自分に言い聞かせて、自分を慰める。正当化する。
幸い、卑怯な方法ではあるけれど、ノートで美久の本音を聞くことができる。そのうち、なにがあったのかも、美久の口から聞けるかもしれない。そのとき、おれにできることがあればいい。そしてゆくゆく、おれを見てもらえたら――。
考えれば考えるほど、おれは狡くて最低だな、と思った。
こんなおれを美久は好きになってくれるんだろうか。
ひとり階段で考え込んでいてもなんにも解決はしない。
返事は家に帰ってゆっくり考えることにして校舎を出る。
七時間目が終わってしばらく経っているからか、空は薄暗くなっていた。日が沈んでいるのでかなり肌寒い。朝から夕方まで雨が降っていたのもあるのだろう。
地面に水たまりができていて、街灯を反射させている。
ポケットのスマホを確認するけれど、美久からはなにも届いていなかった。かといって、このままおれも送らない、というわけには行かないよな。でも、なにを送ればいいんだろうか。こういうのよくわかんねえなあ。中学のときはつき合う前からやり取りがあったからなんにも気にせずメッセージを送れたんだけど。
今から帰る、とか? そんな報告いるか?
空の写真でも撮って添付するとか? いや、柄じゃないから引かれるかも。
やべえな、おれ。全然だめだ。
とりあえずなんでもいいから送ろう。なにもしないよりしたほうがいい。
意を決してスマホのトーク画面と開くと、
「景くん」
聞こえるはずのない声が聞こえてきた。
弾かれたように顔を上げると、校門のそばで立っている美久を見つける。
「え? み、美久? なんで?」
文系コースは一時間以上前に授業が終わってすでに帰っているはずだ。こんな時間までなんで学校にいるんだ。
驚くおれに、美久がゆっくりと近づいてきた。
「ちょっと、調べ物があったから、ついでに、タイミング合うかなって」
「あ、え、そっか」
つまりそれは、おれを待っていた、ということだろうか。思いも寄らない美久の行動に、頭の中がぐるぐるする。けれど、おそらく顔は無表情だったのだろう。美久が「ごめん」と恐る恐る謝る。
「いや、謝ることじゃないだろ」
こういうときなんて言えばいいのか。
〝あの人なに考えてるかよくわかんなくない?〟
以前美久がノートに書いていたことを思いだし、勇気を振り絞る。
「今日話せなかったから、うれしい」
思っていることを、そのままはっきり口にすると、さすがのおれも顔が熱くなった。もしかしたら赤くなっているかもしれない。それがバレそうで美久の顔が見れない。
こういうことを恥ずかしげもなく口にできるジンを、心底尊敬する。
「よかった」
美久の声色が明るくなったのを感じて視線を戻す。なぜか、美久は、困ったように笑っていた。
「えっと、じゃあ、帰るか」
うん、とうなずいた美久が、おれのとなりに並ぶ。
この前、ジンとまほちゃんと四人で出かけたときも、おれは美久のとなりを歩いた。けれど、おれと美久は恋人という関係になり、美久がおれの彼女なんだと思うと、あのときとはちがう、感覚に襲われる。
「どっか寄って帰るか?」
美久がそれを望んでいたのかどうかも知らないのだから。
その結果が、あの告白だ。
あの瞬間だけでもいいから、美久の不安を払拭したいと思った。
無意識に近い行動だったけれど、今思い返せば、あれでよかったとも思う。
たとえそれが、美久の弱みにつけ込んだものだとしても。
おれとつき合えば、美久の不安をひとつ、忘れることができる、と。
おれのことが好きじゃないくせに、美久は『つき合う』と言ってくれた。おれが提案したような理由ではないと言葉を添えて、おれの手を取ってくれた。
ノートでおれを名指しできらいだと書いていたくらいだから、誰でもいいからつき合いたいと言いつつ、おれは対象外なのではないかと思っていたので、ほっとした。
どんな理由であれ、つき合うことになった。
今はそれでいい。
今はおれのことが好きじゃなくてもいい。
「これから挽回すればいいからな」
自分に言い聞かせて、自分を慰める。正当化する。
幸い、卑怯な方法ではあるけれど、ノートで美久の本音を聞くことができる。そのうち、なにがあったのかも、美久の口から聞けるかもしれない。そのとき、おれにできることがあればいい。そしてゆくゆく、おれを見てもらえたら――。
考えれば考えるほど、おれは狡くて最低だな、と思った。
こんなおれを美久は好きになってくれるんだろうか。
ひとり階段で考え込んでいてもなんにも解決はしない。
返事は家に帰ってゆっくり考えることにして校舎を出る。
七時間目が終わってしばらく経っているからか、空は薄暗くなっていた。日が沈んでいるのでかなり肌寒い。朝から夕方まで雨が降っていたのもあるのだろう。
地面に水たまりができていて、街灯を反射させている。
ポケットのスマホを確認するけれど、美久からはなにも届いていなかった。かといって、このままおれも送らない、というわけには行かないよな。でも、なにを送ればいいんだろうか。こういうのよくわかんねえなあ。中学のときはつき合う前からやり取りがあったからなんにも気にせずメッセージを送れたんだけど。
今から帰る、とか? そんな報告いるか?
空の写真でも撮って添付するとか? いや、柄じゃないから引かれるかも。
やべえな、おれ。全然だめだ。
とりあえずなんでもいいから送ろう。なにもしないよりしたほうがいい。
意を決してスマホのトーク画面と開くと、
「景くん」
聞こえるはずのない声が聞こえてきた。
弾かれたように顔を上げると、校門のそばで立っている美久を見つける。
「え? み、美久? なんで?」
文系コースは一時間以上前に授業が終わってすでに帰っているはずだ。こんな時間までなんで学校にいるんだ。
驚くおれに、美久がゆっくりと近づいてきた。
「ちょっと、調べ物があったから、ついでに、タイミング合うかなって」
「あ、え、そっか」
つまりそれは、おれを待っていた、ということだろうか。思いも寄らない美久の行動に、頭の中がぐるぐるする。けれど、おそらく顔は無表情だったのだろう。美久が「ごめん」と恐る恐る謝る。
「いや、謝ることじゃないだろ」
こういうときなんて言えばいいのか。
〝あの人なに考えてるかよくわかんなくない?〟
以前美久がノートに書いていたことを思いだし、勇気を振り絞る。
「今日話せなかったから、うれしい」
思っていることを、そのままはっきり口にすると、さすがのおれも顔が熱くなった。もしかしたら赤くなっているかもしれない。それがバレそうで美久の顔が見れない。
こういうことを恥ずかしげもなく口にできるジンを、心底尊敬する。
「よかった」
美久の声色が明るくなったのを感じて視線を戻す。なぜか、美久は、困ったように笑っていた。
「えっと、じゃあ、帰るか」
うん、とうなずいた美久が、おれのとなりに並ぶ。
この前、ジンとまほちゃんと四人で出かけたときも、おれは美久のとなりを歩いた。けれど、おれと美久は恋人という関係になり、美久がおれの彼女なんだと思うと、あのときとはちがう、感覚に襲われる。
「どっか寄って帰るか?」