「おれとつき合えば、もう、誤解されないんじゃないか?」

 ――それは、ずるい。

 その話を今する景くんも、それに一瞬でも心を奪われた自分も。

「そのために、あんなこと言ったの?」
「それもあるけど、ウソじゃない。おれは本気だ」
「だめ、だよ」
「なんで?」

 景くんには、なんの迷いも抱いていないように首を傾げる。
 だっておかしいじゃない。突然そんなこと言い出すなんて。つき合おう、だなんて発想が飛びすぎている。

 信じられない。本気だと言われても、それを素直に受け止められない。

 どう考えたって、あの場であたしを守るためだったとしか思えない。もちろん、なんの好意も抱いてなければ、つき合おうと教室のど真ん中で言ったりしない人だとはわかっているけれど。

 でも。

「そんなにおれがきらい?」
「っちが、ちがう。きらいなんかじゃない」

 ぶんぶんと顔を左右に振って、スカートを握りしめた。


 好きだ。


 今、はっきりと思う。あたしは景くんのことを、ずっと好きだったと、思う。

 だから、ずっときらいだった。
 きらいでいなくちゃいけなかった。
 そうじゃないと、あたしだけが好きで居続けていることになるから。

 思わず右手に力を込める。

 つき合っているときは、一度もこんなふうに手をつながなかった。ずっと、つなぎたかったのに、つなげなかった。

 また、前みたいに悲しい思いをするのは、いやだ。

 景くんは、本当にあたしのことが好きなの? あたしはそれを信じられるの?

「きらいじゃないなら、じゃあ、つき合おう」

 目尻を下げた景くんが、まるでお願いするように言った。その切なげな表情に胸が締めつけられる。うれしいのと同じくらいの気持ちで、不安になる。

 でも、断ることもできない。
 だってあたしは景くんが好きなんだから。

 ずっと、ずっと。誰でもいいからつき合いたいなんてウソだった。景くんとつき合いたいと思っていた。

「おれを、利用していいから」
「そんなこと、しないよ。そんなつもりでは、つき合わない」

 言葉にしながら、瞳に涙が浮かんでくる。
 なんで泣いているのか自分でもよくわからない。

「――普通に、つき合う、だけ」

 泣いていたらだめだと顔を上げて笑ってみせたけれど、おそらくひどい顔をしていたのだろう。景くんは顔をゆがめて、言葉を詰まらせた。

 うれしくて幸せな今日のはじまり。

 だというのに、あたしたちの表情も、空も、晴れにはほど遠かった。



 一時間目が終わって、ぐったりしながら図書室に向かう。
 景くんとつき合うことになってから、まわりの目が気になって仕方がない。眞帆も浅香もなにがあってこうなったのかと根掘り葉掘り訊こうとしてくる。あたしだってわからないから、答えようがない。

 このままでは今日一日休み時間のたびに疲労してしまうと、一時間目が終わってすぐに教室を抜け出してきた。

「なんか展開のはやさに置いてけぼりにされてる気分……」

 はあーっとため息を吐く。
 本当に景くんとつき合うことになったのか、実は夢だったんじゃないかとすら思えてくる。ずっと、素直に喜べないままだ。

 ……好きなのに、なんでこんな状態にならなきゃいけないんだろ。

 ぶんぶんと頭を振って、気分を入れ替えるために交換日記を探す。彼氏ができたことを報告して、今の不安も吐き出したい。今ならまだノートの相手はまだあたしの返事を見ていない可能性が高い。

 脇目も振らずに図書室の奥に向かい、今朝棚にさしたノートを抜き取った。

「あれ、もう返事ある」

 付箋はあたしの貼ったピンクではなく水色になっている。

 あたしのあとに図書室に来ていたのだろうか。タイミングが悪ければ顔を合わせていたのかもしれない。あぶなかった。
 冷や汗とともに安堵の息を吐き出してページをめくる。



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  さあ どうだろうなあ
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  教えねえよ
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  ただ 頑張ろうかなって
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  だからさ
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  おれにいろいろ教えてよ
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 それは、緑色の文字だった。