「もっとガンガン話しかけて来たじゃん。っていうか男子が苦手とかなんでそんなことになってんの? そんなわけないだろ? 今も普通に話してんじゃん」
その話、眞帆にはしていないよね。
今後のことを考えると、ここで口止めをしておくべきか。
でも、陣内くんにそんなことができるんだろうか。口が軽そうだから、口止めすることが逆効果にもなりかねない。
「もうその話はいいから」
「じゃあ景の話にするか。景はいつも瀬戸山のこと気にしてたんだよな」
「――っえ?」
ぱっと顔を上げると、陣内くんはにやりと笑った。そこで、自分の反応があからさまだったことに気づき、湯気が出そうなほど顔が熱くなった。
「よく瀬戸山のこと見てたぞ。たぶん」
「なによ、たぶんって。っていうか、もういいからそういうのは」
恥ずかしさを隠すためにふいと目をそらして、素っ気ない態度を取る。
陣内くんの勘違いに違いない。もしくは、あたしをからかうためのウソだ。
陣内くんが言うような感情は、景くんにはないはずだ。
そう思っているのに、なんで間抜けにも反応してしまうのか。
なんでこんなに景くんのことで気持ちが揺らいでしまうのか。
もうやだ。だから、きらい。景くんなんかきらいだ。
あたしだけが、景くんを好きみたいで、いやだ――。
自分の感情に、はっと息をのむ。
あたしは今、なにを。
じっと固まって動かないでいると、陣内くんが顔をのぞき込んできた。
「瀬戸山、もしかしなくても景が」
「やめてってば!」
陣内くんが先の言葉を口にする前に、勢いよく立ち上がり彼の口を塞いだ。
「ぶはは! なにその顔!」
あたしの顔はまだ真っ赤だったらしく、陣内くんが指をさして笑う。
「陣内くんが、変なことを言うから!」
「オレのせいじゃねえだろ」
「うるさい! バカ!」
ケラケラと大きな声で笑う陣内くんに悪態を吐きながら睨みつけると、彼はよりいっそう楽しげに笑う。
「もういい加減に――」
「なにしてんの」
陣内くんへの怒りが弾けそうになった瞬間、つめたい声が教室の中に響く。
そろりと振り返ると、教室のドアに無表情の眞帆と、そのとなりにはなぜか景くんが立っていた。
「ま、眞帆、おかえり」
陣内くんから手を離して、眞帆に呼びかける。景くんの顔は見ないように、眞帆にだけ集中する。なんで景くんがいるのか気にならないわけではない。それに、どこから話を聞いていたのかという心配もある。
でもそれ以上に、眞帆のつめたい声が鼓膜にこびりついて消えないから。
「大丈夫だった? 課題」
不安な顔は見せないように意識をする。
自分でできていたのかはわからないけれど、眞帆は「うん」といつものように微笑んで近づいてきた。そして、陣内くんのとなりに座る。陣内くんはあたしや景くんに向ける笑顔とまったくちがうだらしない顔を眞帆に見せる。
「ふたり仲いいね」
眞帆があたしを見て言う。
笑っているのに、目の奥が笑っていないように感じて、体温が下がる。
「そんなこと、は」
「美久が男子とじゃれ合ってるのってはじめて見た」
あたしの否定に、眞帆が言葉をかぶせる。
中学から、男子とじゃれ合うような会話はしてこなかった。なのに、つい陣内くんとは昔のノリで話してしまっていた。人が少ないからと軽率なことをした。
しかも相手は眞帆の彼氏だ。仲良く話すべきじゃなかった。今まで誰とも話をしなかったのに、陣内くんとだけ話す姿を見たら――。
――『ぶりっこだよね』
同じように思われたかもしれない。
そう思うと、顔が引きつる。
どうしよう。どうしよう。
こんなことなら陣内くんが来たときに教室を出て行けばよかった。目の前がかすんでいくのがわかる。動悸が激しくなる。怖い。いやだ。どうしよう。
「そういえば、陣内くんはわかりやすいしね」
眞帆が独り言のように呟く。
さっき好みを訊かれたときに、あたしはそう答えた。
もしかしたら、誤解されているかもしれない。
「……眞帆」
「なーんて! 冗談だよ!」
震える声で呼びかけると、眞帆が突然表情を柔らかくした。
「ごめんごめん、ちょっとからかっただけ。美久、そんな顔しないで」
「いや、あたしも、ごめん」
ここは笑うべきなんだろうか。
口元をどうにか緩めようとしたけれど、うまく動いているのか自分ではわからなかった。それでも、目の前にいる眞帆が笑っていてくれることにほっとする。安堵で体中から力が抜けそうになる。
そのせいで、涙があふれそうになる。
このタイミングで泣くことは、絶対ダメなのに。
「美久」
その話、眞帆にはしていないよね。
今後のことを考えると、ここで口止めをしておくべきか。
でも、陣内くんにそんなことができるんだろうか。口が軽そうだから、口止めすることが逆効果にもなりかねない。
「もうその話はいいから」
「じゃあ景の話にするか。景はいつも瀬戸山のこと気にしてたんだよな」
「――っえ?」
ぱっと顔を上げると、陣内くんはにやりと笑った。そこで、自分の反応があからさまだったことに気づき、湯気が出そうなほど顔が熱くなった。
「よく瀬戸山のこと見てたぞ。たぶん」
「なによ、たぶんって。っていうか、もういいからそういうのは」
恥ずかしさを隠すためにふいと目をそらして、素っ気ない態度を取る。
陣内くんの勘違いに違いない。もしくは、あたしをからかうためのウソだ。
陣内くんが言うような感情は、景くんにはないはずだ。
そう思っているのに、なんで間抜けにも反応してしまうのか。
なんでこんなに景くんのことで気持ちが揺らいでしまうのか。
もうやだ。だから、きらい。景くんなんかきらいだ。
あたしだけが、景くんを好きみたいで、いやだ――。
自分の感情に、はっと息をのむ。
あたしは今、なにを。
じっと固まって動かないでいると、陣内くんが顔をのぞき込んできた。
「瀬戸山、もしかしなくても景が」
「やめてってば!」
陣内くんが先の言葉を口にする前に、勢いよく立ち上がり彼の口を塞いだ。
「ぶはは! なにその顔!」
あたしの顔はまだ真っ赤だったらしく、陣内くんが指をさして笑う。
「陣内くんが、変なことを言うから!」
「オレのせいじゃねえだろ」
「うるさい! バカ!」
ケラケラと大きな声で笑う陣内くんに悪態を吐きながら睨みつけると、彼はよりいっそう楽しげに笑う。
「もういい加減に――」
「なにしてんの」
陣内くんへの怒りが弾けそうになった瞬間、つめたい声が教室の中に響く。
そろりと振り返ると、教室のドアに無表情の眞帆と、そのとなりにはなぜか景くんが立っていた。
「ま、眞帆、おかえり」
陣内くんから手を離して、眞帆に呼びかける。景くんの顔は見ないように、眞帆にだけ集中する。なんで景くんがいるのか気にならないわけではない。それに、どこから話を聞いていたのかという心配もある。
でもそれ以上に、眞帆のつめたい声が鼓膜にこびりついて消えないから。
「大丈夫だった? 課題」
不安な顔は見せないように意識をする。
自分でできていたのかはわからないけれど、眞帆は「うん」といつものように微笑んで近づいてきた。そして、陣内くんのとなりに座る。陣内くんはあたしや景くんに向ける笑顔とまったくちがうだらしない顔を眞帆に見せる。
「ふたり仲いいね」
眞帆があたしを見て言う。
笑っているのに、目の奥が笑っていないように感じて、体温が下がる。
「そんなこと、は」
「美久が男子とじゃれ合ってるのってはじめて見た」
あたしの否定に、眞帆が言葉をかぶせる。
中学から、男子とじゃれ合うような会話はしてこなかった。なのに、つい陣内くんとは昔のノリで話してしまっていた。人が少ないからと軽率なことをした。
しかも相手は眞帆の彼氏だ。仲良く話すべきじゃなかった。今まで誰とも話をしなかったのに、陣内くんとだけ話す姿を見たら――。
――『ぶりっこだよね』
同じように思われたかもしれない。
そう思うと、顔が引きつる。
どうしよう。どうしよう。
こんなことなら陣内くんが来たときに教室を出て行けばよかった。目の前がかすんでいくのがわかる。動悸が激しくなる。怖い。いやだ。どうしよう。
「そういえば、陣内くんはわかりやすいしね」
眞帆が独り言のように呟く。
さっき好みを訊かれたときに、あたしはそう答えた。
もしかしたら、誤解されているかもしれない。
「……眞帆」
「なーんて! 冗談だよ!」
震える声で呼びかけると、眞帆が突然表情を柔らかくした。
「ごめんごめん、ちょっとからかっただけ。美久、そんな顔しないで」
「いや、あたしも、ごめん」
ここは笑うべきなんだろうか。
口元をどうにか緩めようとしたけれど、うまく動いているのか自分ではわからなかった。それでも、目の前にいる眞帆が笑っていてくれることにほっとする。安堵で体中から力が抜けそうになる。
そのせいで、涙があふれそうになる。
このタイミングで泣くことは、絶対ダメなのに。
「美久」