「まあ、それも悪くはないけど、告白されたし断る理由もないし。これから知ってもいいんじゃない? つき合わない限り見えないものもあると思うしさあ。陣内くん、絶対わたしのこと美化しすぎているよ」

 わたしのキツい性格知ったら陣内くんが逃げるかもーと眞帆が豪快に笑う。

「そうなったらショックじゃないの?」
「そんなこと言ってたら一生つき合えないじゃん。なるようにしかならないって。どれだけ相手のこと知ったと思ったって答えなんか一生わかんないんだから。だいたい人はかわるものよ、美久」

 眞帆が大人っぽく優雅な笑みを顔に貼りつけてあたしの肩に手を乗せる。演技がかったその仕草に、つい噴き出してしまった。

 うん、でも、言われてみればそうかもしれない。

「ありのままで生きてる人間なんていないんだから。みんな誰かによく思われたいし、ムダな争いはしたくないっしょ」
「え、眞帆もそんなふうに思うの?」

 意外すぎる。驚くあたしに、眞帆が「どういう意味よ!」と目を吊り上げた。

「美久だって、そうでしょう?」

 眞帆がそのセリフをどういうつもりで口にしたのかは、表情がよく見えなくてわからなかった。だから、「んー」と曖昧な返事しかできなかった。

「で、美久は? 有埜くんとどうよ」

 なんで急に景くんの話が出てくるの。

「いや、どうって言われても」
「好きじゃないの? 好きになれそうとかもないの? イケメンだからいいんじゃない? 顔がよければ大体のことは許せるって言ってたじゃん」

 言ってたけれども。それは芸能人の話だ。そしてたしかに景くんはイケメンで、昔から彼が気になっていた理由に好みの顔だから、というのは間違いなくある。

 もしかしたら、今も彼を前にすると落ち着かないのはそのせいかも。

「それでも限度があるでしょ。やっぱり性格も大事じゃん」
「……つき合ったことないくせに。じゃあ聞くけど、美久の好みってどんな人よ」

 眞帆の言葉が鋭すぎて涙が出そうだ。
 つき合ったことあるし! 恋人同士のイベントはなにもしてないけど!

「うーん、わかりやすい人が、いいかなあ」

 教室に着いて、カバンを机に置いて考える。ノートにも書いたことを思いだして答えると、眞帆が「なるほどー」と言って自分の席に座った。その直後「あ!」と大きな声を出して立ち上がる。

「美久! ごめんちょっと職員室行ってくる!」
「え? どうしたの?」
「昨日提出期限だったノート、カバンに入れっぱなしだった! すぐ渡してくる!」
「わ、わかった」

 朝早いこともあり、教室にいる生徒はまだ数人しかいなかった。みんなはそれぞれ好きなことをしている。スマホでネットサーフィンでもしていれば、眞帆はすぐ戻ってくるだろう。

「あれ? 眞帆ちゃんは?」

 急いで来たのか、少し息を切らせながら中を見渡して陣内くんがあたしに声をかけてくる。あたしに「瀬戸山ひとり?」と言いながら近づいてきて、あたしの前の空席に腰を下ろした。

「眞帆は職員室。すぐ戻ってくると思うよ」

 クラスメイトが少ないからか、自然と返事ができた。
 人がいなければ話せる自分に驚く。同時に、それほどまわりを気にして振る舞っていることにも。情けない。

「っていうかさ、瀬戸山は景とどういう関係なの?」
「なんにもないよ。ただの同級生でしょ」

 前振りもなく突然出てきた景くんの名前にどきりと胸が跳ねる。その動揺が顔に出ないようにしながら、当たり障りのない返答をする。

「でも景って、瀬戸山のことは意識してる感じあるじゃん」
「……そ、そんなことないでしょ。よく女子と一緒にいるじゃん」

 どもってしまった。

 意識されている、なんて。どう受け止めたらいいの。そして、胃の辺りがむずむずしはじめる。こそばい、くすぐったい。なにこれ。

「え? なになに? 女子といること口にするなんて、瀬戸山も意識してんの?」
「そういうんじゃないから。もう、眞帆を迎えに行きなよ」

 羞恥で耐えられなくなり、ぷいっとそっぽを向く。
 もう十分もすればクラスメイトも徐々に登校してくる時間だ。あまり陣内くんとふたりで話をしていたくないし。はやく眞帆が戻ってくるか、陣内くんがどこかに行くかしてほしい。

「いいじゃん、せっかくだし話そうぜ。なあなあ、景のこと好きなわけ? っていうか瀬戸山、雰囲気かわったよなあ」

 話があれこまざっていて、どれに反応すればいいのか。しかもぐいぐいくる。

「昔は誰にでも話してなかった? そんなに無口だったっけ?」
「そんなことは、ない」

 ここに居続けるなら、もう黙ってほしい。