小学生のときと違って、うまくつき合えると思った。
だからこそ、まわりにかき乱されるのが面倒だからという理由で、まわりにつき合ったことは言わなかった。けれど昔のように、学校でお互いを避けることはなかった。仲のいい友だちとして、人前でもおれと美久はいい関係を築けていたと思う。
でも、やっぱりそう簡単なことでもなかった。
友だちと恋人は、まったくちがう。
明るくていろんなことに好奇心旺盛だと思っていた美久は、正直ただのミーハーだった。とにかく流行りにばかり興味を示すのでうんざりしたこともある。美久自身が好きなものはなんなんだよ、と何度も口を突いて出そうになった。もしかしたら何回かは言ったかもしれない。
おれが興味があることを言えば『なにそれ』『面白いの?』ときょとんとした顔をするだけだったのも引っかかった。
ずっと、なにかがすれ違っていた。
たった一度だけしたデートの記憶が曖昧なのも、そのせいだろう。
そして、中学一年の終わり、美久から『別れよう』とメッセージが届いた。おれはすぐに『わかった』と返事をして、二度目の付き合いは終わった。
それからおれは美久と一度も話をしていない。
中学では二年三年と同じクラスにはならなかったし、小学生のころ以上に、別れたあとはお互い気まずく避けていたのもある。
同じ高校に通っている今も、おれは理系コースで美久は文系コース。校舎がちがうので、顔を見かけるのも週に一度あるかないかだ。
すれ違っても、挨拶すらしない。完全にただの他人になっている。
そのあいだに、美久はかわった。
話をしなくなったから、その変化がおれには大きく感じた。
どこにいても美久だとわかるほどの大きな笑い声は聞こえなくなった。女子と楽しげに話していても、小学校時代に比べたらずいぶんと大人しい。いつも誰かと一緒にいたのが、ときどき、ひとりの姿も見かけるようになった。
いつからかわからない。気がついたら、美久はかわっていた。
それが成長した、ということなのかもしれない。
自分ではわからないが、美久から見ればおれもかわって見えるかもしれないし。
……もう他人なのでどうでもいいことなんだけど。
今のおれにとって美久は、最も苦手とする女子だ。どちらかというとあまりにミーハーな性格は〝きらい〟という分類に入る。昔のように話をしようという思いは微塵もない。
それでも気になるのは、やっぱり元カノという存在だから。それだけだ。
振り返った先に、すでに美久の姿はなかった。
はあ、とため息をついて自販機の前に立つ。そしていちごオレを選ぶ。がこん、と取り出し口に落ちてきたそれを手にしてから、いや、おれ甘いもん苦手だろうが、と自分にツッコミを入れる。美久がいちごオレが好きだとか言っていたのを無意識に思い出していたのだろう。甘いのがいい、ピンクがかわいいからいい、とよくわからない理由でいつもいちごオレを飲んでいた。さっきも、手にしていたような気がする。
「バカか、おれは」
捨てるわけにもいかないので飲むしかない。
ほんと、おれはバカだ。
いちごオレにストローを突き刺して、一口飲んで顔をしかめた。
「景、また行方不明になってたな」
教室に戻ると友人の男子ふたりがおれに声をかけてくる。そのふたりの近くには女子が三人。いつものメンバーだ。
図書室だよ、とは言わずに「ちょっと散歩」と答えて自分の席に腰を下ろす。
「自由人だな、景は。っていうか今日放課後ボーリング行こうぜ」
「おう、いいよ」
面倒くせえな、と思ったのに、口では調子のいい返事をする。
「さすが景、断らない男」
なんじゃそら。
盛り上がる友人たちを見ながら、今日も家でのんびりする時間がなくなったな、とひとり肩を落とす。それに、誰も気づかない。
「有埜くん、ほんっと誘い断らないよね。っていうかみんなで集まるの好きだよねえ」
「そういうわけでもないけどなあ」
そばにいた女子に言われて、苦く笑う。
本当は、大勢とわいわいするよりも、家でひとりで過ごす時間のほうが好きだと知ったら、友人たちはどんな顔をするのだろう。いちいち説明することのほうが面倒なので言わないけれど。
だからこそ、まわりにかき乱されるのが面倒だからという理由で、まわりにつき合ったことは言わなかった。けれど昔のように、学校でお互いを避けることはなかった。仲のいい友だちとして、人前でもおれと美久はいい関係を築けていたと思う。
でも、やっぱりそう簡単なことでもなかった。
友だちと恋人は、まったくちがう。
明るくていろんなことに好奇心旺盛だと思っていた美久は、正直ただのミーハーだった。とにかく流行りにばかり興味を示すのでうんざりしたこともある。美久自身が好きなものはなんなんだよ、と何度も口を突いて出そうになった。もしかしたら何回かは言ったかもしれない。
おれが興味があることを言えば『なにそれ』『面白いの?』ときょとんとした顔をするだけだったのも引っかかった。
ずっと、なにかがすれ違っていた。
たった一度だけしたデートの記憶が曖昧なのも、そのせいだろう。
そして、中学一年の終わり、美久から『別れよう』とメッセージが届いた。おれはすぐに『わかった』と返事をして、二度目の付き合いは終わった。
それからおれは美久と一度も話をしていない。
中学では二年三年と同じクラスにはならなかったし、小学生のころ以上に、別れたあとはお互い気まずく避けていたのもある。
同じ高校に通っている今も、おれは理系コースで美久は文系コース。校舎がちがうので、顔を見かけるのも週に一度あるかないかだ。
すれ違っても、挨拶すらしない。完全にただの他人になっている。
そのあいだに、美久はかわった。
話をしなくなったから、その変化がおれには大きく感じた。
どこにいても美久だとわかるほどの大きな笑い声は聞こえなくなった。女子と楽しげに話していても、小学校時代に比べたらずいぶんと大人しい。いつも誰かと一緒にいたのが、ときどき、ひとりの姿も見かけるようになった。
いつからかわからない。気がついたら、美久はかわっていた。
それが成長した、ということなのかもしれない。
自分ではわからないが、美久から見ればおれもかわって見えるかもしれないし。
……もう他人なのでどうでもいいことなんだけど。
今のおれにとって美久は、最も苦手とする女子だ。どちらかというとあまりにミーハーな性格は〝きらい〟という分類に入る。昔のように話をしようという思いは微塵もない。
それでも気になるのは、やっぱり元カノという存在だから。それだけだ。
振り返った先に、すでに美久の姿はなかった。
はあ、とため息をついて自販機の前に立つ。そしていちごオレを選ぶ。がこん、と取り出し口に落ちてきたそれを手にしてから、いや、おれ甘いもん苦手だろうが、と自分にツッコミを入れる。美久がいちごオレが好きだとか言っていたのを無意識に思い出していたのだろう。甘いのがいい、ピンクがかわいいからいい、とよくわからない理由でいつもいちごオレを飲んでいた。さっきも、手にしていたような気がする。
「バカか、おれは」
捨てるわけにもいかないので飲むしかない。
ほんと、おれはバカだ。
いちごオレにストローを突き刺して、一口飲んで顔をしかめた。
「景、また行方不明になってたな」
教室に戻ると友人の男子ふたりがおれに声をかけてくる。そのふたりの近くには女子が三人。いつものメンバーだ。
図書室だよ、とは言わずに「ちょっと散歩」と答えて自分の席に腰を下ろす。
「自由人だな、景は。っていうか今日放課後ボーリング行こうぜ」
「おう、いいよ」
面倒くせえな、と思ったのに、口では調子のいい返事をする。
「さすが景、断らない男」
なんじゃそら。
盛り上がる友人たちを見ながら、今日も家でのんびりする時間がなくなったな、とひとり肩を落とす。それに、誰も気づかない。
「有埜くん、ほんっと誘い断らないよね。っていうかみんなで集まるの好きだよねえ」
「そういうわけでもないけどなあ」
そばにいた女子に言われて、苦く笑う。
本当は、大勢とわいわいするよりも、家でひとりで過ごす時間のほうが好きだと知ったら、友人たちはどんな顔をするのだろう。いちいち説明することのほうが面倒なので言わないけれど。