欲がないなあ。気を遣ってるのかなあ。希美さんがなにかを指定することってほどんどない気がする。お兄ちゃんがなんでも決めちゃう感じだ。

「美久ちゃんは瀬戸山くんに似てるよね」

 いや、それはちがう。
 お兄ちゃんと似てるとか心外だ!



_______________________
_______________________
_______________________
  うれしいからつき合っちゃうかも
_______________________
  でも実際どうするかは
_______________________
  土日で考えたけどわかんなかった!
_______________________
_______________________
  どうしたの急に
_______________________
  あ もしや誰かに告白されたとか?
_______________________
  いや 好きな子に告白するとか?
_______________________
_______________________
  だったら応援してる!
_______________________
_______________________
_______________________



 月曜日の朝、いつものように図書室に返事を書いたノートをこっそり置いた。

 結局、ノートに書かれていた質問に、はっきり答えることはできなかった。

 景くんと話す前のあたしなら、きっと即答できただろう。そう思うと、なんで、と疑問が浮かぶ。なんで景くんが関係しているのか、わかんない。でも、景くんの顔が頭をよぎるたびに、答えを見失ってしまう。

 たったひとつだけ、浮かぶ答えはあったけれど、それには気づかないフリをした。

 ……なんだかなあ。
 すっきりしない気分だなあ。

 腕を組みながら険しい顔をして廊下を進む。渡り廊下にさしあたると、ひんやりとした風がやってくる。そろそろ冬が近いのか、風が前よりもつめたい。

 雨の降りそうな不穏な空を見上げると、胸の中にも陰りが広がった。空が重たげなように、体も少し重くなる。

 渡り廊下を進んで文系コースの校舎に入る。そして靴箱の前を歩いていると、

「あれー美久?」

 と、昇降口のほうから眞帆の声が聞こえてきた。横を見ると眞帆があたしに手を振っている。そのとなりには、陣内くんも。

 なぜ、ふたり一緒にいるの?
 偶然会った、のかな?
 いや、そんなはずはない。
 だって、ふたりは手を、つないでいる。

「え? え? もしかして」

 挨拶も忘れてふたりのつながれている手を凝視すると、

「おつき合いすることになりました」

 とふたりはその手を持ち上げて、幸せそうにはにかんだ。
 急展開がすぎる!

 驚くあたしを置いて、陣内くんは「じゃああとで」と自分の教室に向かった。一度自分の教室に荷物を置いてからあたしたちの教室にくるつもりらしい。校舎がちがうのに、わざわざ。

「彼氏できちゃった」
「……お、おめでとう」

 へへ、とはにかむ眞帆にお祝いの言葉を返す。

「日曜日に、告白されちゃってさあ」

 おお、さすが陣内くん。行動がはやい。

 めでたく恋人同士になったふたりは、今日、駅で待ち合わせをしてこうして一緒に登校してきたらしい。陣内くんはいつも通りの、通学路に生徒がたくさんいる時間帯を望んだらしいが、それは眞帆が拒否したのだとか。

「もう、自慢したいってうるさいんだから」

 そう言いながら、幸せそうに口の端を引き上げている眞帆がかわいい。
 もともとかわいいのに、彼氏ができるとこんなにかわいくなるのか。やばいな、陣内くんは毎日気が気じゃないだろうな。頑張れ。

「でも、はやかったねえ、つき合うまで」

 教室に向かいながら眞帆と話をする。
 陣内くんと眞帆がはじめてしゃべってから一週間くらいだよね。それだけ陣内くんが頑張った、ということなのだろうけれど、すごいスピードだ。

「たしかに。でも知らない人から告白されてつき合うとかもあるんだし」
「言われてみれば」
「ま、これからが本番じゃない? まだ陣内くんのことよく知らないしね」

 眞帆は、はっきりと、堂々と、答える。

「そ、そういうもんなの?」
「そりゃそうでしょー。つき合ったら今まで見えなかったことも見えてくるだろうし」
「それを見てからつき合おう、とはならないの?」

 あたしの質問に、眞帆は「うーん」と考え込む。