「瀬戸山がなにに慣れるって?」
「美久、男子が苦手なの」
陣内くんの質問に、眞帆が答える。と、彼は「え?」ときょとんとした顔をあたしに向けた。
しまった。これは、やばい。
一気に血の気が引いていく。
「瀬戸山が?」
やめて、余計なことを言わないで……!
眞帆は「なに?」と不思議そうな顔をする。
「小学校のときは――」
「お前、なに人のクラスでくつろいでんだよ」
なにかを言いかけた陣内くんにあたしが焦ったのと同じタイミングで、背後から景くんがにゅっと顔を出した。呆れた顔をして陣内くんを見下ろしている。
「あ、景。どした?」
「どした、じゃねえよ。五時間目に使うノート、おれの持ってったままだろ」
「あー、そうだっけ」
悪い悪い、と陣内くんはまったく心のこもっていない謝罪を口にする。
「そんなことのためにわざわざここまでオレを探しに来たのかよ」
「お前が休み時間のたびに姿を消しそうだからな」
今じゃなくてもいいじゃん、と眞帆との時間を邪魔されたことに拗ねているのか、陣内くんが不満そうにした。
景くんが来てくれてよかった。
「よ」
ほっとしていると、景くんがあたしを見て軽く手を上げる。「あ、おはよ」と目をそらしながら返事をする。
景くんと朝の挨拶なんて……何年ぶりだろう。