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ごめん 前におれ
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誰かを好きになる自信がないって言ったけど
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今までずっと別れた彼女のこと
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好きだったんだって気づいた
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いや だからってなにもできないんだけど
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その 参考までに聞いてもいいか?
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あんた なんで有埜景がきらいなの?
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朝早くに学校に来て、昨晩書いたノートの返事をもう一度自分で読み直す。そして、付箋を貼ってノートを棚にさし、棚に腰掛けて天井を見上げる。
――おれは、美久が好き。
その言葉を、昨日家に帰ってからしばらく落ち着いて考えた。
今さらなにを言っているんだ。おれはバカなのか。
美久と別れてから三年半も経っていて、そのあいだおれと美久は一度も話をしていない。フラれたのはおれだったけれど、未練はないはずだった。
たぶん、おれが美久を好きなのは、笑顔なのだと思う。つまり、容姿だ。そしてその気持ちは、内面を知るたびに薄れていったはずだ。
ミーハーなところがいやだったはずなのに。
すぐに流行りに振り回される性格にうんざりしていたのに。
美久は今も同じだ。なのに、それがわかっていてどうして好きだなんて思うのか。
昔の気持ちを思いだして、今もそうだと錯覚しているだけなのでは。
そう思ったけれど、美久を思い出すたびに、好きだ、の三文字が浮かぶ。
足掻くのはすぐに諦め、自分の気持ちを受け入れる。すると次は、「詰んでるな」と気づいた。おれが美久を好きでも、美久はおれをフッたのだ。
脈なしすぎるだろ。
それに、美久は昨日『そんな昔のことは、もう関係ないもんね』と言った。
そう、もう美久にとっては関係のないことなんだ。その程度の関係だった。また好きになったところで行き止まりじゃねえか。それに、万が一つき合えたところで、同じことを繰り返すだけだろう、とも思う。
「なんなんだよ、おれは」
情けなさ過ぎて笑うしかできなかった。ごん、と窓ガラスに後頭部をぶつけて目をつむる。
無理だから、この気持ちはなかったことにしましょう、なんて簡単にできるわけがない。その程度のものなら、とっくに美久のことなんか忘れていたはずだ。
その結果が〝あんた なんで有埜景がきらいなの?〟だ。
このノートの相手はおれのことをきらっていた。
その理由が、無性に気になって我慢できなくなった。
素性を隠してきらいな理由を聞くなんてめちゃくちゃかっこ悪いことはわかっている。自分でもすげえ恥ずかしい。でも、もしかしたら彼女がおれをきらいな理由と、美久がおれをフッた理由が同じかもしれない。それをどうにか直すことができれば、美久にフラれた理由がなくなるってことで、そしたら、もう一度だけ、美久に近づくことを許されるんじゃないか、と。
そんな簡単にいくわけもねえのに。
おれってこんなに小ずるいやつだったのか。
こういうところが知らず知らずにバレて美久はおれがいやになったのでは。
やっぱり最後の二行を消そうかな。
いや、でも、やっぱり聞きたい。
べつに騙しているわけじゃないし。わざわざ名乗ったらそれこそおかしな話だ。それに、自分の悪いところは改善できたほうがいい。
そんな言い訳を頭に並べて、「よし」と背を伸ばし場所を移動した。
そばにいたらずっと悩んでしまう。とりあえずノートのことはいったん忘れて、土日に読むための本でも探そう。
相手の女子が来る可能性があるので、意識しないように棚を眺めて歩く。文庫本コーナーまで離れれば、万が一相手の女子が図書室に来てもやり取りしているのがおれだとはバレないはずだ。
目的の本があるわけではないので、棚のはしからゆっくりと見ていく。
すると、見覚えのあるタイトルに視線が止まる。