元気いっぱいのジンを見て、まほちゃんが笑う。
そして、なぜかふたりは並んで歩きだした。おれや美久なんていないかのように自然に、顔を見合わせて微笑み、会話をしはじめる。
……あいつら、おれと美久がいること忘れてるのでは。
こんなことならおれたちは必要なかったのでは。
このまま勝手に帰っても問題なさそうだなあ、と思いつつ、そんなことはできないのでふたりの後ろをついて行く。なにも言わない美久をちらりと見ると、ぼんやりとした顔でおれの半歩後ろにいた。
ジンとまほちゃんは楽しげに話している。というかジンのテンションがめちゃくちゃ高い。顔もデレデレしている。好意がダダ漏れだ。
まほちゃんも、ジンが自分のことを好きなことには気づいているだろう。わかったうえでメッセージのやり取りをして一緒に出かけるということは、それなりにジンに好印象を抱いているはずだ。ジンの片想いが報われるのもそう遠くない気がした。
美久は、相変わらず黙ったままだ。
おれと同じで、あまり乗り気ではなかったのだろう。そりゃそうか、と思いつつ、なんだかじくりと胸がうずく。
にしても、こんなになにもしゃべらない美久ははじめてだ。
高校に入ってからの美久があまり男子と話さなくなったことには気づいていた。でも、これほどだとは。普段は話さなくても、さすがにこのシチュエーションならなにか会話くらいしたっていいのに。知らない相手でも、ジンとまほちゃんのために美久はこの場を楽しくしようとするような性格だと思っていた。
なにより、こういう友人の恋を応援するとか、ダブルデート、みたいな状況に美久なら興奮しそうだけどなあ。
一緒にいるのがおれだから、なのだろうか。
まあ、そうだよな。それ以外に別人のような態度になる理由なんかないよな。
晴れている空が、むなしい時間をよりいっそうむなしく感じさせる。雨でも降っていたほうが騒がしくてよかったかもしれない。
涼しい風の中で歩くおれと美久のあいだには、ずっとつめたい空気が流れていた。
結局、駅に着くまでおれと美久は目も合わすこともなかった。
「お前、もうちょっと愛想よくしろよ。どうしたんだよ」
改札を通ると、ジンに耳打ちされて「悪い悪い」と返事をする。なんでおれがそんなことを、と思いつつ、ジンのために、と自分を納得させた。それに、おれも相手が美久でなければもうちょっと話ができていたはずだ。
深く気にするのはやめよう。美久は元カノじゃない、ただの女子だ。
「ごめんね、美久って男子が苦手だからさあ」
「ま、眞帆、そんなこと言わなくていいから!」
まほちゃんが美久を肘で突きながら言った。
……男子が苦手? 美久が?
思いも寄らない返事に、ついぽかんとしてしまう。ジンはまったく疑問を抱いていないらしく「いやいや景が悪いんだよ」とヘラヘラ笑っていた。
話はそこで一度途切れ、ホームにやってきた電車に乗り込み、目的の駅に向かった。散々悩んだ結果、ジンは女子たちの意見を参考に駅のすぐそばにあるファミリーレストランで過ごすことに決めたらしい。
ファミレスでおしゃべり、か。さすがにここで無言でいるわけにはいかない。
なにか話をしなければ。なにがいいだろう。昔は――美久があれこれしゃべってきたのでおれから話題を提供したことがないな。やばい。なにも浮かばねえ。
もしかしたら今日をきっかけに、美久と昔のような関係に戻れるかもしれないのに。と、考えたところで、おれは戻りたいのか、と自分に問う。
ノートの彼女が、かわろうとしているから、それに触発されたのかも。
いつまでも美久とこのままの関係ってのも、気まずいしな。いまだに過去のことを気にするのもおかしいだろう。元カノと友だちになっている友だちはたくさんいるんだし。
美久にも正直そう伝えよう。せめて今日だけでも、と。
実は意識してるのはおれだけ、ということもあり得そうだな。
なんか、おれってすげえかっこ悪い気がしてきた。
ファミレスに向かいながら、美久に話すタイミングを考える。ジンは未だにおれと美久がつき合っていた事実を知らないのだ。ジンの前では絶対話ができない。かといってわざわざ美久を呼び出してふたりきりになる、というのも大げさだよな。ジンに誤解されて言いふらされる可能性もある。
「あの」
ぐるぐるとひとり考え込んでいると、か細い声が聞こえて振り返った。美久が、上目遣いにおれを見ていて、視線がぶつかる。
「な、なに」
一瞬言葉に詰まってしまい焦る。
感情があまり顔に出ないタイプでよかった。おそらく美久にはおれが動揺していることはバレていないだろう。
そして、なぜかふたりは並んで歩きだした。おれや美久なんていないかのように自然に、顔を見合わせて微笑み、会話をしはじめる。
……あいつら、おれと美久がいること忘れてるのでは。
こんなことならおれたちは必要なかったのでは。
このまま勝手に帰っても問題なさそうだなあ、と思いつつ、そんなことはできないのでふたりの後ろをついて行く。なにも言わない美久をちらりと見ると、ぼんやりとした顔でおれの半歩後ろにいた。
ジンとまほちゃんは楽しげに話している。というかジンのテンションがめちゃくちゃ高い。顔もデレデレしている。好意がダダ漏れだ。
まほちゃんも、ジンが自分のことを好きなことには気づいているだろう。わかったうえでメッセージのやり取りをして一緒に出かけるということは、それなりにジンに好印象を抱いているはずだ。ジンの片想いが報われるのもそう遠くない気がした。
美久は、相変わらず黙ったままだ。
おれと同じで、あまり乗り気ではなかったのだろう。そりゃそうか、と思いつつ、なんだかじくりと胸がうずく。
にしても、こんなになにもしゃべらない美久ははじめてだ。
高校に入ってからの美久があまり男子と話さなくなったことには気づいていた。でも、これほどだとは。普段は話さなくても、さすがにこのシチュエーションならなにか会話くらいしたっていいのに。知らない相手でも、ジンとまほちゃんのために美久はこの場を楽しくしようとするような性格だと思っていた。
なにより、こういう友人の恋を応援するとか、ダブルデート、みたいな状況に美久なら興奮しそうだけどなあ。
一緒にいるのがおれだから、なのだろうか。
まあ、そうだよな。それ以外に別人のような態度になる理由なんかないよな。
晴れている空が、むなしい時間をよりいっそうむなしく感じさせる。雨でも降っていたほうが騒がしくてよかったかもしれない。
涼しい風の中で歩くおれと美久のあいだには、ずっとつめたい空気が流れていた。
結局、駅に着くまでおれと美久は目も合わすこともなかった。
「お前、もうちょっと愛想よくしろよ。どうしたんだよ」
改札を通ると、ジンに耳打ちされて「悪い悪い」と返事をする。なんでおれがそんなことを、と思いつつ、ジンのために、と自分を納得させた。それに、おれも相手が美久でなければもうちょっと話ができていたはずだ。
深く気にするのはやめよう。美久は元カノじゃない、ただの女子だ。
「ごめんね、美久って男子が苦手だからさあ」
「ま、眞帆、そんなこと言わなくていいから!」
まほちゃんが美久を肘で突きながら言った。
……男子が苦手? 美久が?
思いも寄らない返事に、ついぽかんとしてしまう。ジンはまったく疑問を抱いていないらしく「いやいや景が悪いんだよ」とヘラヘラ笑っていた。
話はそこで一度途切れ、ホームにやってきた電車に乗り込み、目的の駅に向かった。散々悩んだ結果、ジンは女子たちの意見を参考に駅のすぐそばにあるファミリーレストランで過ごすことに決めたらしい。
ファミレスでおしゃべり、か。さすがにここで無言でいるわけにはいかない。
なにか話をしなければ。なにがいいだろう。昔は――美久があれこれしゃべってきたのでおれから話題を提供したことがないな。やばい。なにも浮かばねえ。
もしかしたら今日をきっかけに、美久と昔のような関係に戻れるかもしれないのに。と、考えたところで、おれは戻りたいのか、と自分に問う。
ノートの彼女が、かわろうとしているから、それに触発されたのかも。
いつまでも美久とこのままの関係ってのも、気まずいしな。いまだに過去のことを気にするのもおかしいだろう。元カノと友だちになっている友だちはたくさんいるんだし。
美久にも正直そう伝えよう。せめて今日だけでも、と。
実は意識してるのはおれだけ、ということもあり得そうだな。
なんか、おれってすげえかっこ悪い気がしてきた。
ファミレスに向かいながら、美久に話すタイミングを考える。ジンは未だにおれと美久がつき合っていた事実を知らないのだ。ジンの前では絶対話ができない。かといってわざわざ美久を呼び出してふたりきりになる、というのも大げさだよな。ジンに誤解されて言いふらされる可能性もある。
「あの」
ぐるぐるとひとり考え込んでいると、か細い声が聞こえて振り返った。美久が、上目遣いにおれを見ていて、視線がぶつかる。
「な、なに」
一瞬言葉に詰まってしまい焦る。
感情があまり顔に出ないタイプでよかった。おそらく美久にはおれが動揺していることはバレていないだろう。