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  あ あたしと一緒だね
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  あたしも昔の経験はいい思い出じゃないな
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  そもそも 人づき合いに自信がないなあ
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  数年間まわりからどう見えるか考えて
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  振る舞ってきたから どうしていいのか……
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  いや でも 頑張りたい
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  あなたは 自分がどういう人が好きか
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  考えてみたらどうかな
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 おれが返事のノートを受け取ったのは、授業が終わってSHRがはじまるまでの合間だった。五時間目のあとはそれどころではなかった。

 お昼休みはジンと言い合いをし、途中から勝手に恋愛相談をされ、女子たちにボロカス言われるジンを見つめているあいだに終わってしまった。そして五時間目のあいだにそんなことはきれいさっぱり忘れて、放課後にどこに行くべきかとしつこく聞かれたから。

 SHRのあとはおそらくジンにすぐ捕獲されるだろう。ノートを明日まで持ち越すのだけは避けるために、この短い隙間時間に図書室にやってきたのだ。

 どうやらノートの女子は、思った以上に人目を気にするタイプのようだ。

 数年間もそう過ごしていたのなら、『そんなの気にするな』と言われたところでかわるのは難しいだろう。本人もそんなことはわかっているだろうしな。

 まあ、おれにはそんなに気にしなくてもいいと思うけれど。彼女の返事を見る限り、話しやすそうな印象を受ける。こんな子が本当に自分を偽って人と接しているのか、勘違いじゃねえの、と思うくらいだ。

 実際話すのとは大違いだということはわかるけど。

 ……ま、それに関してはおれも人のことは言えないか。

 おれの場合は彼女のようにまわりを気にしているから、ではなく、面倒だからというだけだ。まわりから抱かれているイメージとちがう言動をすると、あれこれと突っ込まれる。だから、できるだけイメージとずれないように意識しているところがある。

 実際のおれは、昨日姉ちゃんに言われたような、ダサい男だ。

 そして、おれは今後誰かとつき合うことになったとき、そういうマイナスのイメージを与えそうな姿は今までのように隠すだろう。

 だから、おれのことを好きだと言われても、ピンとこない。
 じゃあ。

〝あなたは 自分がどういう人が好きか 考えてみたらどうかな〟

 わっかんねえなあ。

 今まで、好きだと思ったのも美久だけだしなあ。今となっては美久のどこを好きだったのかも、よくわからないくらいだし。なんかきっかけとかあったんだろうか。目をつむって記憶を遡ると、中学時代の美久の笑顔がよみがえる。

 少し、胸がざわついた、ような気がした。

 それを一蹴するかのような予鈴が鳴って、体がびくっと反応する。
 もうSHRの時間だ。ノートをポケットに入れて慌てて図書室をあとにした。それに、今はこのノートのことよりも考えるべきことがある。

 ああ、放課後が近づいてくる。
 どうすんだよ、おれ。
 あと二十分ほどあとには、おれは美久と一緒にいるのだろう。

 やばい、なんか緊張してきた。いや、ジンに放課後の話を聞いてからずっとだ。
 ジンはなんでおれの予定も確認せず、承諾も得ず、勝手に遊びに行く約束をしたのか。理解に苦しむ。今日は六時間目で終わる日で、友人から遊びの誘いもなかったからひとりでCDショップと書店に寄ろうと思ったのに。そして、それらを部屋に広げてまったり時間を過ごすつもりだったのに。図書室で借りっぱなしになっている本も読み終わらせたかった。

 なんで、こんなことになったんだ。

 でも、一番理解できないのは、それを断らない自分自身だ。文句を言いつつ、『いやだ』とも『無理』だとも、口にしなかった。

「いや、驚きすぎただけだ」

 それに、今まで友人からの誘いをほとんど断ることがなかったから、癖で。そう、きっとそうだ。

 誰もいないのに、言い訳を繰り返す。
 今さら美久と、なにを話せばいいのか。
 胸の圧迫感が、おれの呼吸を荒くする。



「よし、行くぞ!」

 SHRが終わるやいなや、ジンはおれの肩をがっしりと掴み、引きずるように歩きだした。逃げねえよ、と何度言っても信用してくれず、そのまま靴箱まで連れてこられ、昇降口で美久たちがやってくるのを待つ。

「あ、お待たせ陣内くん」

 一秒進むごとに緊張感が増していく中、聞こえてきた声に体が大きく跳ねた。視線を向ければ、まほちゃんとやらと、そのとなりに美久が気まずそうに立っている。

「全然! 全然待ってないから」
「んじゃ行こうー」