通学路には茶色に染まった葉を身につけた木々が片側に並んでいて、地面には枯れ葉が落ちていた。歩くとカサカサと、秋の音がした。

 ――『景くんは、ほんっと、人の話を聞かないなあ』

 となりにいた美久がそう言って、笑った。文句を言われているのに、ちっともいやな気がしなかったのは、美久の笑顔が楽しげだったからだろう。

 ――『でも、好き』

 そして、顔を真っ赤に染めて美久が言った。
 気がついたら、『おれも』と返事をして、おれたちはつき合った。

 あの日が、おれたちが一緒に過ごした時間の中でもっとも幸せな日だった。それ以降は、ただ、下がるだけ。

 メッセージのやり取りはしていたけれど、いつの間にか〝つき合うってなんだ?〟と疑問になるほど、画面でしかやりとりがなく自然におれたちは終わった。

 二度目はもっと、急降下した気がする。

 電話もしたしメッセージのやり取りもしたけれど、おれは美久の希望をなにひとつ叶えられないまま終わった。なにをすればいいのかも、わからなかった。

 お互いに歩み寄れないまま、ギクシャクしたデートだけをして別れた。

 ――『思ってたのと、ちがう』

 美久からメッセージでそう言われたのは、デートのあとだったっけな。

 つき合うことがなければ、おれは美久と友だちとして今も接点があったのかもしれない。つき合わなければ、今日のお昼休みのときみたいに、美久に避けられることもなかっただろう。

 美久のいやなところや苦手な部分を知らないままでいられたはずだ。ましてやきらいだと、一瞬でも思うこともなかったに違いない。

 この前、ジンがまほちゃんに話しかけたときだって、あんな居心地の悪い思いをしなくて済んだ。あんなあからさまに避けられ、話しかけたことを後悔することもなかった。

 ――つき合わなければよかった。

 そんなふうに思っているから、誰かとつき合うことに前向きになれないのだろう。ノートでの会話から、今、はじめてそのことに気がつく。

 気づいたからには、どうにかすべきだよな。今のままでは、よくないだろう。
 でも彼女がほしいと心底思ってるわけでもないしなあ……。

「羨ましいな」

 彼女のまっすぐさが、眩しくて目を細めた。



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  恋探しか なんか青春だなー
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  誰かを好きにって自分で言ったくせに
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  おれにできんのか自信ねえな……
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  前につき合ったことがあるんだけど
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  フラれてから好きになったりつき合ったり
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  一度もしてないんだよな
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  って言うか 女子が苦手だしな
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  話はするけど 特別仲良くはできねえんだ
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 あんなに自分の気持ちに向き合い、素直な言葉を誰かに伝えたことはない。

 次の日の朝にノートを図書室に置いてきて、お昼休みになるまでぼんやり書き出した自分の気持ちを考えながら過ごした。

 返事を考え、文字にして、自分がなにを思っていたのかを知った。
 ずっと美久のことがおれの中で消化しきれずにしこりになっていたこと。彼女にがっかりされたことと同じくらい、おれが美久にがっかりしたことが忘れられない。好きだったはずなのに、そんなこと思う自分に、なによりショックだったんだ。

 だから、女子にたいして一線を引いて接してしまう。
 友だちなら気にならないから。

 男友だちにはそんなことを思ったことはない。女子だからいやだ、と思っているわけでもない。ただ、つき合うとおれはそんなふうに相手を受け入れられなくなるかもしれない、と考えているだけだ。

 考えれば考えるほど、美久のことばかり思いだす。

 だからと言って、今も美久が好きだ、というわけではない。
 苦手な女子の中で、最も苦手な相手だ。
 ただの事実。深い意味も気持ちもない。
 そしてそれを知ったところで、今後改善しよう、とは微塵も思わない。