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  そうだよね 自分から動かないとね
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  あなたのおかげで
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  自分で行動しようって思えたよ
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  ありがとう! あたし 恋をするよ!
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  あたしもあなたのこと知らないけど
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  でも 素敵な人だと思う
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  だから 一緒に恋を探そう!
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 放課後、七時間目の授業が終わったあとで図書室によると、彼女からの返事が書き込まれていた。
 おれはそれを家に持ち帰り、自室で読み直しながら口元を緩ませている。

 今までなら家に持ち帰らず、図書室で返事を書いた。けれど、今日は友だちに遊びに誘われていたので、ゆっくりと考える暇がなかった。
 グレーと黒で統一されたシンプルな部屋の中で、ベッドで横になりノートを見つめる。制服を脱いでラフな格好になり、コンタクトも外してメガネという、完全オフスタイルで読むと、今までとちがった気分になる。

 普段よりもボリュームを絞ったスピーカーからは、心地よいジャズが流れている。

 前向きな彼女の返事からは、かわいらしさがあふれていた。誰かにそう思うなんて、何年ぶりだろう。素直な子なんだろうな。思っていることが全部顔に出ていそうな気がする。

 ――美久みたいに。

 と、思ったところで壁に頭を打ちつける。
 いや、美久は関係ないだろ。たしかに、美久にも同じようなことを思ったことがある。けれど、ノートの彼女は美久とはちがう。あの美久が〝本当の自分〟に悩むなんてイメージが合わなさすぎる。

 美久は、いつもニコニコして、思っていること全部を口と表情に出すタイプだった。 流行りに敏感で、夢見がちで、すぐ怒って拗ねて笑う。おれと別れてから多少かわった部分はある。けれど、美久は美久だ。話していなくても、時々しか見かけなくても、おれの目に映る美久は昔のままの美久だ。

 ノートの彼女のような悩みは、きっと抱いたことがないだろう。

 つまり、美久とは関係なく、このノートの相手がかわいらしいな、と思っただけ。彼女の顔も名前も、知らないけれど。うん、かわいいと思う。

 だからこそ、なのだろう。

〝あたしもあなたのこと知らないけど でも 素敵な人だと思う〟

 この言葉に、うれしくなる。
 ノートの中にはおれの本音しか書かれていないのに。

 自分の書いた文章を読み返すと、恥ずかしくなる。こうしてノートに書くまで気づかなかった自分の本音は、自分で見るとあまりのかっこ悪さに悶えてしまう。
 でも、名前も知らない彼女は、そんなおれを受け入れてくれた。

 ……まあ、ノートの持ち主はおれのことがきらいらしいけれど。

 そう考えると、なんか変な感じだな。
 彼女は、やり取りの相手がおれ――有埜景だと知ったら、どういう反応を示すのだろう。返事を無視するのだろうか、それとも、謝るのだろうか。

 絶対言わないけど。
 このやり取りが終わるかもしれないことはしたくない。

 ノートから手を離すと、開かれたノートはそのままおれの顔に落下してきた。
 蛍光灯の光が遮断され、視界が薄ぼんやりとしたグレーに染まる。

 おれたちはお互い極力相手に見つからないようにしている。朝、昼の前半と後半、そして放課後。その時間の中で、いつなら鉢合わせないかを察して図書室に足を運んでいる。少なくともおれはそうしている。彼女も、誰と交換日記をしているか、知らないままでいたいのだろう。

 おれと、同じ。
 それがまた、このやり取りを特別なものに感じさせる。

 今日、返事を書かずにノートを家に持ち帰ってしまったので、明日の朝、彼女はきっと図書室に来る。彼女がやってくる前に図書室に行きたいけれど、顔を合わせる正体がばれるリスクを考えると、やめておいたほうがいいだろうな。せめて予鈴が鳴るギリギリなら、休み時間か、遅くとも昼休みには彼女の手に渡るだろう。

「なにしてんの、景」

 目をつむって考えていると、上から声が降ってきて飛び上がる。