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  おれも同じだなって思った
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  隠しといて知ってほしいって
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  ワガママだよな おれら
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  でもさ
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  おれこのノートのあんたしか知らないけど
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  あんたのことだめとは思わないよ
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  おれら 誰かに好かれる前に
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  誰かを好きになればいいんじゃね?
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 がっくりと肩を落としながら図書室にやってきた。
 どうしようどうしよう。
 ノートを見つけ、水色の付箋で彼からの返事があることを理解しても、ページを開いて彼の文字を見ても、頭の中がぐちゃぐちゃで言葉が脳に入ってこない。

 眞帆と一緒に男子と出かけるだなんて……。
 中学のときみたいなことになったらどうしよう。

 細心の注意を払わなければいけない。いや、でも相手はあたしの過去を知っている陣内くんと景くんだ。あまり露骨に会話を避けていたら不審がられるだろう。
 それに。

 ――『美久は空気読めないもんね』

 眞帆は陣内くんともっと仲良くなるために会うのだから、あたしが場の空気を悪くするわけにはいかない。内心ではふたりにはあまりつき合ってほしくないな、と思っていても、眞帆が陣内くんとつき合いたいのならば、邪魔になるようなことはしたくない。

 眞帆があんなふうに誰かに興味を持つのを見るのは、出会ってからはじめてのことだ。純粋に応援したいと思う。
 でも。

 ――『ぶりっこなのも、みんな気づいてるんだよ』
 ――『美久って男子の前で態度ちがうもん』

 思いだすと、胃がきゅっと縮む。
 どうしよう、どうしよう。

 ノートを手にして、棚に腰掛けずにずるずるとしゃがみ込んだ。

 落ち着け、落ち着くんだ。パニックになってもなんにも解決しないのだから。
 自分に何度も言い聞かせて深呼吸をした。そしてあらためてノートを見る。

〝おれこのノートのあんたしか知らないけど あんたのことだめとは思わないよ〟

 ……本当に? 本当にそう思うの?

 この言葉を、まるっと信じることは難しい。だって相手は、あたしのことなんか知らないどこかの誰かだ。

 でも、今まで誰にも言えなかったことを吐き出したノートでのやり取りから、そう言ってもらえるのは、うれしい。少しだけ、ほんの少しだけど、安堵の息がもれる。

 今まで、誰もそんなふうに言ってくれなかった。
 それは、あたしが誰にも悟られないように隠してきたからだ。
 それでも、心のどこかで、誰かにやさしい言葉をかけてもらいたかったんだ。
 彼氏がほしい、と言うと同じように。

「たしかに、ワガママだね」

 ふふっと小さな笑いがこぼれる。
 彼の言葉を鵜呑みにはできないからこそ、この言葉のおかげで、少しはあたしもかわれるんじゃないかと思った。逃げるだけじゃなくて、すべてを遮断するんじゃなくて。

 ワガママばっかり言ってちゃだめだよな、と。
 自分から、動かなくちゃ。

〝誰かに好かれる前に 誰かを好きになればいいんじゃね?〟

 そのとおりだ。
 こういう考えができる彼は、きっと素敵な人なのだろう。この人と、こんな偶然にも関わりができて、やり取りができることはすごく幸運だったに違いない。

「誰かを好きに、か」

 ひとりごつ。
 好きになるのなら――このノートの彼みたいな人を、好きになりたいな。

 そう考えるとなぜか景くんが脳裏に浮かび、それをあわてて追い出した。