「景くん、元気そうだったな」
気がついたら呟いていた。
この前渡り廊下で見かけた景くんは、昔となにもかわっていなかった。
景くんは、あたしと真逆だな、といつも思う。
友だちといてもひとりでいても、女子に笑いかけていても、男子とバカなことを言ってゲラゲラ笑っているときも、どこか落ち着いた雰囲気を纏っていた。
それは、自分に自信があるからなんじゃないかと思う。まわりからどう見えているか、なんてことに悩むようなことはきっとない。
いつだって景くんは景くんだった。
だから、あたしは景くんのことを好きになったのかもしれない。
でも、つき合うと、そんな景くんと一緒にいると自分がひどくかっこ悪い、情けない存在に感じた。
――『流行りばっかり気にしなくていいだろ』
――『他人は関係ないじゃん』
流行りのドラマも映画も、流行りのデートコースも、オシャレも、スイーツも、いつだって景くんはあたしの提案に難色を示し、そのたびにそう言った。
あのころの景くんに、あたしはどう見えていたんだろう。
中学のときに告白をしたのはあたしだ。小学校のとき以上に、景くんと一緒にいたい、もっと話がしたい、と思ったから。そして、景くんは『おれも』と言ってくれた。
でも、きっとあたしは、景くんの求めたような彼女ではなかったのだろう。だから、いつも眉間にシワを寄せていたのだと思う。
最初で最後のデートも、景くんはずっと、不機嫌そうだった。
あたしの話にずっと上の空で、つまらなさそうにしていた。すごく感じが悪くて、めちゃくちゃ居心地が悪かった。
どうせあたしが行きたがった店が流行りものだとバカにしていたのだろう。そういうものに無頓着どころか、彼は若干ばかにしていた。あたしのことも、流行好きのミーハーだと思っていたに違いない。
そんなときだったから、余計にかみちゃんの言葉が胸に刺さったのかもしれない。
このままならフラれるのを確信し、あたしから『もう終わろう』というメッセージを送った。景くんはあっさりと『わかった』と返事をした。
それからあたしたちはただの他人になった。
同じクラスに一度もならなかったし、高校でも理系と文系でまったく接点がない。偶然すれ違っても、目も合わさない。たまたま視線がぶつかっても、すぐにそらされる。
元カノ元カレの関係なので気まずいと思うことすら、きっと景くんにはないだろう。景くんはなんとも思っていない。
……それが、ひどく悔しい。
「っいや! それ以上の気持ちはないけどね!」
はっとして、声を出す。
なんか変なこと考えそうだった気がする。
あたしにとって景くんはもう過去の人だ。今考えれば本当に好きだったのかどうかもわかんないし。ちょっとかっこよくて話をするのが楽しかったから。ただ恋をしたかったあたしに、ちょうどよかっただけ。
今は、どちらかと言えばきらいなくらいだ。
そう、あたしは景くんがきらいなのだ。
次は幸せな恋愛をするんだ。景くんみたいな男子は、絶対にいやだ。漫画や小説やドラマみたいな恋。浅香と彼のように、相手のことをまるっと好きでいられて、好きでいてもらえるような、そんな関係がいい。気を遣わずに気楽に笑い合える、好きなことを一緒に思い切り楽しめる人がいい。
でも本当は知っている。
自分を偽って過ごしているあたしにはそんな彼氏は絶対にできない。
返事にも書いたように、あたしは本当のあたしを、誰にも知られたくない。
だって、知られたら、好きになってもらえるはずがないから。
校舎を出てから見上げた空は澄み渡る青空だったのに、どこかさびしげでくすんで見えた。雲のない空は、置き去りにされたような心細い気持ちにさせる。
気がついたら呟いていた。
この前渡り廊下で見かけた景くんは、昔となにもかわっていなかった。
景くんは、あたしと真逆だな、といつも思う。
友だちといてもひとりでいても、女子に笑いかけていても、男子とバカなことを言ってゲラゲラ笑っているときも、どこか落ち着いた雰囲気を纏っていた。
それは、自分に自信があるからなんじゃないかと思う。まわりからどう見えているか、なんてことに悩むようなことはきっとない。
いつだって景くんは景くんだった。
だから、あたしは景くんのことを好きになったのかもしれない。
でも、つき合うと、そんな景くんと一緒にいると自分がひどくかっこ悪い、情けない存在に感じた。
――『流行りばっかり気にしなくていいだろ』
――『他人は関係ないじゃん』
流行りのドラマも映画も、流行りのデートコースも、オシャレも、スイーツも、いつだって景くんはあたしの提案に難色を示し、そのたびにそう言った。
あのころの景くんに、あたしはどう見えていたんだろう。
中学のときに告白をしたのはあたしだ。小学校のとき以上に、景くんと一緒にいたい、もっと話がしたい、と思ったから。そして、景くんは『おれも』と言ってくれた。
でも、きっとあたしは、景くんの求めたような彼女ではなかったのだろう。だから、いつも眉間にシワを寄せていたのだと思う。
最初で最後のデートも、景くんはずっと、不機嫌そうだった。
あたしの話にずっと上の空で、つまらなさそうにしていた。すごく感じが悪くて、めちゃくちゃ居心地が悪かった。
どうせあたしが行きたがった店が流行りものだとバカにしていたのだろう。そういうものに無頓着どころか、彼は若干ばかにしていた。あたしのことも、流行好きのミーハーだと思っていたに違いない。
そんなときだったから、余計にかみちゃんの言葉が胸に刺さったのかもしれない。
このままならフラれるのを確信し、あたしから『もう終わろう』というメッセージを送った。景くんはあっさりと『わかった』と返事をした。
それからあたしたちはただの他人になった。
同じクラスに一度もならなかったし、高校でも理系と文系でまったく接点がない。偶然すれ違っても、目も合わさない。たまたま視線がぶつかっても、すぐにそらされる。
元カノ元カレの関係なので気まずいと思うことすら、きっと景くんにはないだろう。景くんはなんとも思っていない。
……それが、ひどく悔しい。
「っいや! それ以上の気持ちはないけどね!」
はっとして、声を出す。
なんか変なこと考えそうだった気がする。
あたしにとって景くんはもう過去の人だ。今考えれば本当に好きだったのかどうかもわかんないし。ちょっとかっこよくて話をするのが楽しかったから。ただ恋をしたかったあたしに、ちょうどよかっただけ。
今は、どちらかと言えばきらいなくらいだ。
そう、あたしは景くんがきらいなのだ。
次は幸せな恋愛をするんだ。景くんみたいな男子は、絶対にいやだ。漫画や小説やドラマみたいな恋。浅香と彼のように、相手のことをまるっと好きでいられて、好きでいてもらえるような、そんな関係がいい。気を遣わずに気楽に笑い合える、好きなことを一緒に思い切り楽しめる人がいい。
でも本当は知っている。
自分を偽って過ごしているあたしにはそんな彼氏は絶対にできない。
返事にも書いたように、あたしは本当のあたしを、誰にも知られたくない。
だって、知られたら、好きになってもらえるはずがないから。
校舎を出てから見上げた空は澄み渡る青空だったのに、どこかさびしげでくすんで見えた。雲のない空は、置き去りにされたような心細い気持ちにさせる。