前は「もー」と大げさに拗ねたり笑ったりできていたけれど……さすがに不安になってきた。
「あたしってそんなに彼氏できそうにないの?」
恐る恐る聞くと、
「っていうか、本当に彼氏ほしいの?」
と浅香に逆に質問される。
「そりゃ、ほしいから言ってるんだけどー!」
今まで本気だと思われていなかった、ということだろうか。え、なんでそんなふうに思われるの。
「マジで? なんで?」
「な、なんでって……そりゃ、なんか、高校生だし。恋愛ドラマとか映画とか観てたらいいなあって。SNSで人気のカフェデートとかも素敵だし」
「SNSって、美久たまにミーハーっぽいこと言うよね」
必死に彼氏がほしい理由を語っていると、口が滑る。
浅香が失笑している姿に、体が小さく震える。
「わたしもしたーい」
眞帆が手を上げてあたしの意見に同意してくれた。思わずほっと安堵の息を漏らす。
ミーハーな理由で彼氏がほしくなったのは、たしかだと思う。昔から恋人同士という関係に憧れがあった。けれど、最近は以前に増して『彼氏がほしい!』と思うようになった。
おそらく、余裕ができたからだろう。
中学二年三年は、それどころではなかった。そして、高校に入学してすぐの一年は友だちを作るのに必死だった。
――同じ失敗をしないために。
二年になった今では、眞帆はもちろん浅香たちとも仲良くなり、あたしは気楽に過ごせている。昔に比べてまわりを気にして過ごすことはなくなり、ゲラゲラとなにも知らなかったときのように笑うこともできる。
そうすると、次は〝彼氏〟だ。彼氏がいればあたしの高校生活はキラッキラだ。
ときめきがほしい。
離ればなれになった幼なじみが戻ってきて恋をしたり(そんな人いないけど)、校内の俺様男子に突然告白されたり彼女のフリを頼まれたり(実際されたら怖いけど)。
それは無理なことくらいわかっている。それでも、憧れる。
なにより、彼氏ができれば、あたしはもっと楽しく過ごせるはずだ。
まわりを気にすることは今以上になくなるだろう。
それに、景くんとつき合ったときのいやな思い出も、払拭できる、はず。
「つまり、あたしは本気で、彼氏がほしいんだよ」
「美久が? マジか」
「そんなに意外?」
結構本気で、ノートに書き殴るくらいには思ってるんだけど。さすがにそれを言うとあまりの必死さに引かれそうなので言わないでおく。
けれど、なぜ眞帆と浅香は顔を見合わせて苦く笑っているのか。どういうことだ。
「だってさあ」
「あ、瀬戸山」
眞帆が口を開くと同時に、背後から名前を呼ばれて振り返る。クラスメイトの男子が教科書を手にしてあたしのほうに近づいてきた。
「なに?」
「となりのクラスの女子がこれ渡してくれって」
ああ、そういえば昨日友だちに貸したっけ。話が盛り上がって話し込んでいたあたしに気遣い、声をかけずにそばにいた男子に言付けたらしい。
「あ、ありがと」
お礼を言って教科書を机の中に入れると、眞帆と浅香がじいっとあたしを見つめていた。まるであたしの心の内を見るかのように、真剣な視線だ。
え、なに。
あたし、なにかやってしまっただろうか。
「どうしたの?」
「彼氏がほしいなら、まずはその男子への塩対応どうにかしないと無理でしょ」
ぎくり、と体が震える。
塩対応。
心の中で反芻すると、不思議な感覚に陥る。
「わたし、美久は男ぎらいだと思ってたんだけど」
「いや、そんなことは……イケメン好きだし」
俳優やアイドルには詳しいほうだ。
ちなみにイケメンの同級生はもちろん、先輩や後輩にも実は詳しい。眞帆たちには言わないようにしているので知らないだろう。あたししか知らない趣味のようなものだ。一緒にいるときにイケメン先輩の話が出たときはウキウキと会話に混ざるけれど。
「そう言われても、美久のその男子への態度、男ぎらいにしか見えないって」
「そんなことはないんだけど、なあ」
今までも何度か眞帆に言われていたし、自覚がないわけではない。
「あたしってそんなに彼氏できそうにないの?」
恐る恐る聞くと、
「っていうか、本当に彼氏ほしいの?」
と浅香に逆に質問される。
「そりゃ、ほしいから言ってるんだけどー!」
今まで本気だと思われていなかった、ということだろうか。え、なんでそんなふうに思われるの。
「マジで? なんで?」
「な、なんでって……そりゃ、なんか、高校生だし。恋愛ドラマとか映画とか観てたらいいなあって。SNSで人気のカフェデートとかも素敵だし」
「SNSって、美久たまにミーハーっぽいこと言うよね」
必死に彼氏がほしい理由を語っていると、口が滑る。
浅香が失笑している姿に、体が小さく震える。
「わたしもしたーい」
眞帆が手を上げてあたしの意見に同意してくれた。思わずほっと安堵の息を漏らす。
ミーハーな理由で彼氏がほしくなったのは、たしかだと思う。昔から恋人同士という関係に憧れがあった。けれど、最近は以前に増して『彼氏がほしい!』と思うようになった。
おそらく、余裕ができたからだろう。
中学二年三年は、それどころではなかった。そして、高校に入学してすぐの一年は友だちを作るのに必死だった。
――同じ失敗をしないために。
二年になった今では、眞帆はもちろん浅香たちとも仲良くなり、あたしは気楽に過ごせている。昔に比べてまわりを気にして過ごすことはなくなり、ゲラゲラとなにも知らなかったときのように笑うこともできる。
そうすると、次は〝彼氏〟だ。彼氏がいればあたしの高校生活はキラッキラだ。
ときめきがほしい。
離ればなれになった幼なじみが戻ってきて恋をしたり(そんな人いないけど)、校内の俺様男子に突然告白されたり彼女のフリを頼まれたり(実際されたら怖いけど)。
それは無理なことくらいわかっている。それでも、憧れる。
なにより、彼氏ができれば、あたしはもっと楽しく過ごせるはずだ。
まわりを気にすることは今以上になくなるだろう。
それに、景くんとつき合ったときのいやな思い出も、払拭できる、はず。
「つまり、あたしは本気で、彼氏がほしいんだよ」
「美久が? マジか」
「そんなに意外?」
結構本気で、ノートに書き殴るくらいには思ってるんだけど。さすがにそれを言うとあまりの必死さに引かれそうなので言わないでおく。
けれど、なぜ眞帆と浅香は顔を見合わせて苦く笑っているのか。どういうことだ。
「だってさあ」
「あ、瀬戸山」
眞帆が口を開くと同時に、背後から名前を呼ばれて振り返る。クラスメイトの男子が教科書を手にしてあたしのほうに近づいてきた。
「なに?」
「となりのクラスの女子がこれ渡してくれって」
ああ、そういえば昨日友だちに貸したっけ。話が盛り上がって話し込んでいたあたしに気遣い、声をかけずにそばにいた男子に言付けたらしい。
「あ、ありがと」
お礼を言って教科書を机の中に入れると、眞帆と浅香がじいっとあたしを見つめていた。まるであたしの心の内を見るかのように、真剣な視線だ。
え、なに。
あたし、なにかやってしまっただろうか。
「どうしたの?」
「彼氏がほしいなら、まずはその男子への塩対応どうにかしないと無理でしょ」
ぎくり、と体が震える。
塩対応。
心の中で反芻すると、不思議な感覚に陥る。
「わたし、美久は男ぎらいだと思ってたんだけど」
「いや、そんなことは……イケメン好きだし」
俳優やアイドルには詳しいほうだ。
ちなみにイケメンの同級生はもちろん、先輩や後輩にも実は詳しい。眞帆たちには言わないようにしているので知らないだろう。あたししか知らない趣味のようなものだ。一緒にいるときにイケメン先輩の話が出たときはウキウキと会話に混ざるけれど。
「そう言われても、美久のその男子への態度、男ぎらいにしか見えないって」
「そんなことはないんだけど、なあ」
今までも何度か眞帆に言われていたし、自覚がないわけではない。