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あー 彼氏がほしい
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誰でもいいからつき合ってくれないかな
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あ でも 有埜景はだめ
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有埜景は きらい だいきらい
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だから いや
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なんだこれは、おれへのいやがらせか。
自分の名前が殴り書きされているノートを見て、眉間に皺がよる。
誰でもいいからつき合いたい、というどこかの誰かに、名指しで拒否られるとは。
おれはお前とつき合いたいと言った覚えはない。っていうかお前は誰だ。
昼休みに、このA7サイズの小さなリングノートを手にしたのは、偶然だった。
おれのお気に入りの場所である図書室の一番奥にある、窓際の棚の上にこのノートがぽつんと置き去りにされているのを見つけたのだ。誰かの忘れ物だろうかと手に取り、なんとなく中を開いた。無意識に持ち主の情報はないかと思っただけだと思う。決して誰かのノートを盗み見しよう、と思ったわけではない。
そこにまさか、おれの名前――有埜景――が書かれているとは。
しかもきらいって、だいきらいって、なんなんだ。
このノートの持ち主は一体おれになんの恨みがあるんだ。
誰だ、とノートの中に持ち主につながるなにかがないかと他のページもめくる。
どうやら特に使用方法の決まっていないメモがわりのノートのようだった。小説や漫画のタイトルだったり、なにかから引用した一文だったり、お腹すいたとか勉強だるい、などの独り言だったりが走り書きされている。本のタイトルらしきものも書かれていた。
名前はもちろん、学年がわかるような情報は見当たらなかった。一年か、おれと同じ二年か。もしくは三年か。……まったくわからん。
彼氏がほしい、ということは、持ち主は女子なのだろう。いや、女子と決めつけるのはおかしいか。男子だって彼氏がほしいやつはいるだろう。
結局、誰なんだ。
持ち主はまだ図書室にいるんだろうか、とぐるりと見渡す。けれど、図書室にいる生徒はかなり少なく、おれの視界にはひとりも見当たらなかった。
理系コースのクラスだけが集まる校舎の一階のすみにあるこの図書室は、テスト前以外はいつもしんと静まっている。場所が悪いからか、四六時中解放されているにもかかわらず利用者は少ない。図書委員も存在はしているが、放課後に小一時間ほど受付にいるだけ。貸し出しも返却も自主申告制という緩いシステムでなんとかなっている。その中でも、今おれがいる場所は植物や生物の図鑑などがメインの棚に囲まれているので、ほとんど人を見かけない。だからこそ、おれのお気に入りの場所だ。
このノートの持ち主は、なんでこの場所にいたのだろう。普段からよく図書室に来るやつだろうか。でも、おれは一日一回は図書室のこの場所にいる。けれど、今まで誰も見かけたことない。
もう一度ノートに視線を戻す。
〝有埜景なんか、だいきらいだ〟
……おれがなにしたって言うんだ。
とにかく、これをどうにかしないとな。
わざわざ落とし物として職員室に届けるのも面倒だ。中身もそれほど大事にも思えないし。ここに置いておけば、なくしたことに気づいて戻ってきた持ち主が持ち帰るだろう。悪口が書かれているものをこのままで放置したくはないが。
「……ったく、なんだかなあ」
釈然としないというか、なんかこうモヤモヤする。
ノートをひらひらと無意味に振ってから、貸し出し手続きをするために持ってきていた胸ポケットの緑色のペンを取りだした。
このくらいの仕返しは許されるだろ。