記憶の中を必死に探る。
遠い昔、両親とブルーベリーを摘んだ事が何度かあった。
真っ青な空に、見上げるほど積み上がった雲。薄紫のマント。
母がブルーベリーを摘んではこちらに見せて、楽しそうに笑う。
灰色の大きな犬は、舌をだらんと出して木陰で伏せていて、帽子を嫌がる私に、熱中症になるから。と、父が背中で日陰を作ってくれて……。
そう、暑い盛りだったはずだ。
「――それ本当にブルーベリー?」
顔を上げると、スカイが早速その実を食べようとしているところだった。
私の声に緊張が含まれていたのに気付いてか、デュナが、スカイの摘み上げていたブルーベリーを力いっぱい叩き落した。
どう見ても、必要以上の威力で。
スカイの手ごと。
「いっ――!!!!!」
声が出せないほど痛かったのだろうか。
よろりと大きく揺れた後、スカイは完全にしゃがみこんでしまった。
地にうずくまったスカイは、その背に負っているフィーメリアさんの陰に完全に隠れてしまっている。
「フォルテは? ひとつでも食べた?」
デュナの問いに、フォルテがぷるぷると首を振る。
「皆と一緒に、食べようと思ったの……」
どういう事態になったのかがわからず、フォルテは明らかに戸惑った表情を見せている。
「そう、よかったわ」
答えを求めるように私を見つめてくる、フォルテのふわふわのプラチナブロンドをそっと撫でる。
「それはブルーベリーじゃないみたい」
昔。
私がフォルテよりも、もう少し小さかった頃、森で見つけたブルーベリーを摘んで、両親に見せたことがあった。
母は、少し困った顔をして私の頭を撫でながら、こう言ったのだ。
「本物のブルーベリーは、暑い時にしか生らないの」
そうだ。この話には続きがあった。
母の言葉を思い出しながら、ゆっくり口にする。
「寒い時期に生るブルーベリーそっくりの実は、ブラックブルーって言ってね。食べると丸一日は眠り続けてしまうのよ」
「それだわ!」
デュナの声にはっとする。
そうか。
フィーメリアさんは、それで目を覚まさないのか。
「丸一日っつーか、三日くらいはここで寝てたみたいだけどな」
スカイの声がフィーメリアさんの下から聞こえてくる。
屈んだままのスカイの足元には、先ほどまでフィーメリアさんが倒れていた部分の草がぐったりと潰されていた。
「睡眠薬入りのスープを飲みすぎた、どっかの誰かと同じでしょ。食べ過ぎたのね。きっと」
デュナがスカイの心配を他所に、あっさりと返す。
むしろ、スカイにとってその発言は墓穴だったようだ。
「うぐ……」
悔しくてか、そろそろ潰されて苦しくなってきてかは分からないが、スカイのうめき声が聞こえた。
私達は、ブラックブルーの実を持って、フィーメリアさんと共に屋敷に戻ることにした。
「ああ、これがブラックブルー……深すぎる眠り。ですか」
ファルーギアさんは、フォルテの持ち帰った実を拾い上げると、興味深そうに眺めている。
そんなに有名な植物ではなかった気もするのだが……。
私と目が合うと、くたびれた服装の頼りなさげな男性は、
「私はこれでも、植物の研究をしていまして……」
と、ちょっと申し訳なさそうに微笑んだ。
私は、そんな意外そうな顔をしていたのだろうか。
どうも、私は感情が顔に出てしまいやすいらしい。気をつけないと……。
「しかし、図鑑では見たことがありましたが、まさか自分の庭に生えていたとは。
遺跡の穴の事といい、自身の家なのに把握していないことばかりで、いや、お恥ずかしいです」
ファルーギアさんが、その小柄な体をさらに小さくする。
「まあ、庭と言っても、こんなに広いとなぁ……」
スカイの台詞に続いて、私もフォローを入れる。
「そうですよ、お気になさらないで下さい」
「はあ、すみません」
なんとか顔を上げたファルーギアさんの目の前には、腕を組んだデュナが待ち構えていた。
遠い昔、両親とブルーベリーを摘んだ事が何度かあった。
真っ青な空に、見上げるほど積み上がった雲。薄紫のマント。
母がブルーベリーを摘んではこちらに見せて、楽しそうに笑う。
灰色の大きな犬は、舌をだらんと出して木陰で伏せていて、帽子を嫌がる私に、熱中症になるから。と、父が背中で日陰を作ってくれて……。
そう、暑い盛りだったはずだ。
「――それ本当にブルーベリー?」
顔を上げると、スカイが早速その実を食べようとしているところだった。
私の声に緊張が含まれていたのに気付いてか、デュナが、スカイの摘み上げていたブルーベリーを力いっぱい叩き落した。
どう見ても、必要以上の威力で。
スカイの手ごと。
「いっ――!!!!!」
声が出せないほど痛かったのだろうか。
よろりと大きく揺れた後、スカイは完全にしゃがみこんでしまった。
地にうずくまったスカイは、その背に負っているフィーメリアさんの陰に完全に隠れてしまっている。
「フォルテは? ひとつでも食べた?」
デュナの問いに、フォルテがぷるぷると首を振る。
「皆と一緒に、食べようと思ったの……」
どういう事態になったのかがわからず、フォルテは明らかに戸惑った表情を見せている。
「そう、よかったわ」
答えを求めるように私を見つめてくる、フォルテのふわふわのプラチナブロンドをそっと撫でる。
「それはブルーベリーじゃないみたい」
昔。
私がフォルテよりも、もう少し小さかった頃、森で見つけたブルーベリーを摘んで、両親に見せたことがあった。
母は、少し困った顔をして私の頭を撫でながら、こう言ったのだ。
「本物のブルーベリーは、暑い時にしか生らないの」
そうだ。この話には続きがあった。
母の言葉を思い出しながら、ゆっくり口にする。
「寒い時期に生るブルーベリーそっくりの実は、ブラックブルーって言ってね。食べると丸一日は眠り続けてしまうのよ」
「それだわ!」
デュナの声にはっとする。
そうか。
フィーメリアさんは、それで目を覚まさないのか。
「丸一日っつーか、三日くらいはここで寝てたみたいだけどな」
スカイの声がフィーメリアさんの下から聞こえてくる。
屈んだままのスカイの足元には、先ほどまでフィーメリアさんが倒れていた部分の草がぐったりと潰されていた。
「睡眠薬入りのスープを飲みすぎた、どっかの誰かと同じでしょ。食べ過ぎたのね。きっと」
デュナがスカイの心配を他所に、あっさりと返す。
むしろ、スカイにとってその発言は墓穴だったようだ。
「うぐ……」
悔しくてか、そろそろ潰されて苦しくなってきてかは分からないが、スカイのうめき声が聞こえた。
私達は、ブラックブルーの実を持って、フィーメリアさんと共に屋敷に戻ることにした。
「ああ、これがブラックブルー……深すぎる眠り。ですか」
ファルーギアさんは、フォルテの持ち帰った実を拾い上げると、興味深そうに眺めている。
そんなに有名な植物ではなかった気もするのだが……。
私と目が合うと、くたびれた服装の頼りなさげな男性は、
「私はこれでも、植物の研究をしていまして……」
と、ちょっと申し訳なさそうに微笑んだ。
私は、そんな意外そうな顔をしていたのだろうか。
どうも、私は感情が顔に出てしまいやすいらしい。気をつけないと……。
「しかし、図鑑では見たことがありましたが、まさか自分の庭に生えていたとは。
遺跡の穴の事といい、自身の家なのに把握していないことばかりで、いや、お恥ずかしいです」
ファルーギアさんが、その小柄な体をさらに小さくする。
「まあ、庭と言っても、こんなに広いとなぁ……」
スカイの台詞に続いて、私もフォローを入れる。
「そうですよ、お気になさらないで下さい」
「はあ、すみません」
なんとか顔を上げたファルーギアさんの目の前には、腕を組んだデュナが待ち構えていた。