ファルーギアさんと一緒に五人で屋敷に戻ると、彼は書斎らしき部屋から一枚の地図を引っ張り出してきた。
机いっぱいに広がる、模造紙のような大きさの地図は、その広い紙の上にぎっしりと通路が書き込まれていた。

地下一階、二階、三階……まであるのか……。予想以上の規模に軽く目眩がする。
地下三階は遺跡の中央にポツンと一室出来ている形になっており、そこに注釈として遺跡の主が眠っていると添えられている。
……つまり、あの遺跡は先人の残した巨大な埋葬施設だったのか。
気付いた途端、背筋を悪寒が駆け上がる。
あのかび臭さも陰気さも、むしろ墓として当然の雰囲気だったのだ。
「うーん……」
ファルーギアさんは小さく唸ったきり、細い顎を指先で擦りつつ考え込んでしまっていた。
デュナは真剣な眼差しで地図を見つめ続けている。
報酬の話はまだ出ていないのだが、デュナが催促しないと言う事は、まだ彼女の中で、この仕事は終わっていないのかもしれない。
私も、なんとなくフィーメリアさんが発見できないことには落ち着かない気がする。

静まり返った部屋で、私の左隣に立っていたスカイが腕を肘で軽く突付いてきた。
スカイを見上げると、スカイの視線は私の右側を見ている。
視線を辿った先には、フォルテが小さく震えていた。

机の端に両手をかけて、頭一つ分、なんとか机の上に出して地図を見ていたフォルテだったが、今は、その大きな瞳があからさまに怯えたような色を宿していた。
どうしたのかと声をかけようとして、その瞳が凝視している部分が、先程私が見ていたものだという事に気付く。
「フォルテ、大丈夫、怖くないよ」
軽く屈んで、その小さなふわふわの頭を軽く引き寄せる。
優しく囁くように、その恐怖を溶かす事が出来るよう祈りつつ声をかける。

目の前で、小さな唇が動くのが見えた。
「これ……お墓なの?」
机の向こう側に立つファルーギアさんに聞こえないようにか、フォルテはいつも小さめの声をさらに小さくして問いかけてきた。
「そうみたいだね」
私の言葉に、フォルテの瞳が揺れる。
「フィーメリアさんは大丈夫だよ。何も怖いことなんかないよ」
どこにも根拠はなかったが、具体的でない何かに怯える子にかけられそうな言葉なんて、他に思いつかなかった。

いつの間に回り込んできたのか、フォルテの右にスカイが顔を出す。
「そもそも、見知らぬ人間の墓を怖がる理由なんてないだろ?」
スカイもやはり、私と同じく精一杯優しい声で話しかけていた。
的を得ないような顔でフォルテがスカイを見上げるので、私もつられてスカイを見る。
「だって、幽霊とか……出るかもしれないよ……」
「どうして? フォルテはその人に何かしたのか?」
「……何にもしてない」
「じゃあ、向こうだって何もしないだろうさ」
「あ……そっかぁ」
フォルテがふにゃっと表情を崩したのを見て、心底ホッとする。
理想を言うならば、この子にはいつも楽しく笑っていてほしい。
あの日、暗い森で一人泣いているフォルテを、過去の記憶を一切無くしてしまったフォルテを拾ってきた事に、私は責任と、自分でも気付かないほどの強い罪悪感を感じていた。