「ねーちゃんっ!」
スカイの声がホールに響く。
轟音と振動。デュナの小さな悲鳴がそれに続いた。

私達を逃がしてくれたデュナは……?

背中が、土と泥にまみれた硬い床に接触する。
地面をマントでこすりながら、土埃を巻き上げて、たっぷりと吹き飛ばされる。
自分の頭を打たない様に、背を丸めてきつくフォルテを抱えていたせいで、息が出来なかったのだろう。
止まったとたんにフォルテが「ぷはっ」と腕から顔を出した。

上体だけを起こしたままで、デュナの姿を探す。
「ねーちゃんっっ!!」
スカイの声が、どうしようもなく悲痛に聞こえる。

建物と巨大人形の腕の隙間から、デュナがふらりと這い出してきた。
「……うるさいわね。生きてるわよ」
減らず口を叩くデュナ。
左手で右腕を不自然に強く押さえているその姿は、あまり無事では無さそうだった。
足も痛めてしまったのか、軽く右足を引きずりながらこちらに駆け寄ろうとするデュナの後ろで、巨大人形が静かに顔を上げる。
私のロッドは、遥か遠くに落ちていた。

「デュナ! 後ろ!!」
フォルテが声を上げる。
スカイの位置からでは気付かないだろう。

私がやるしかない。
杖無しで。
「っ力を貸して、お願い!!」
私の超特急のオーダーに答えてくれたのは、やはりいつもの光の精霊だった。
もやもやと、不定形な光の塊が、デュナの横を通り過ぎ、巨大人形に覆いかぶさる。
そのまま光は壁を……天井までもごっそり砕いて人形を外へと押し出す。

ボロボロだった建物が、ついに最後の悲鳴をあげる。
砕けた部分へ全てを集めるかのように、二階が、三階が傾いてゆく。

「スカイ、二人を抱えて飛び降りなさい!!」
穴の真下にいたデュナが叫ぶ。
「ラズ達は早く外に!!」
振り返るデュナの顔色は青白かった。
もしかすると、右腕は折れているのかもしれない。

バラバラと降り注ぐ石の破片。
石や杖は遠く、拾っている余裕はなさそうだ。

吹き飛ばされた場所からは、最初の出入り口が一番近かった。
デュナが結界を張るのを視界の端にとらえる。
私はフォルテの手を引いて出口へと駆け出した。

「だ、ダメです!無理です!!」
相当狼狽している聞き覚えのない声はマーキュオリーさんの物なのだろう。
「大丈夫。俺が絶対二人に怪我させないから、しっかり捕まって」
状況にそぐわないくらい落ち着いたスカイの声が、やたらと優しく響く。
「失敗したってスカイの足が四~五本折れるだけだから」
「そんなに足があるか!」
二人のやり取りを背に、出口を走り抜け、建物の外に出る。
これでデュナは私達のために結界を張らなくて済むはずだ。
私の精神はさっきの魔法で既に底を付いていた。

役に立たないどころか、状況を悪化させてばかりの自分に歯噛みしつつ、眩しい日差しに包まれて、私達は振り返った。
開け放たれたままの出入り口から、じっと目を凝らして中の様子を見る。

両腕にクーウィリーさん達を抱いて、デュナが作った風のクッションの中へ飛び降りるスカイ。

バランスは取れていたように見えた。
マーキュオリーさんが、悲鳴と共にスカイにしがみつくまでは。

背中に四人分の荷物を背負って、左右に女性を抱えて、それだけでも十分バランスを取り辛い中で、片側の女性に暴れ出されては、さすがのスカイも耐え切れなかったのだろう。

風に落下の威力は殺されていたが、着地の音はボキンと聞こえた気がする。

分かったのはそこまでだ。

崩れる石の壁や瓦礫の中で、皆の姿は完全に見えなくなった。